私見

不確定要素の取り扱い

現実を人間が認識するときには,測定の誤差とかゆらぎといった不確定な要素が含まれるのを完全に取り除くことはできません。とはいえ,何らかの行動を起こす(あるいは起こさない)ためには,不確定性が多かれ少なかれ含まれた「事実」をもとにして,どこかに…

マスクに対する認識

インフルエンザ流行時におけるマスクの意義は,自分がウイルスに感染している場合に他者に咳やくしゃみの飛沫を浴びせないようにすることと,感染していない方にとっては飛沫により感染を受けるリスクを下げることであって,感染している方や感染している可…

過剰反応によるデメリット

海外渡航中に新型インフルエンザに感染したことが判明した方々に対する過剰反応の一端が先日報道されていました。「帰ってくるな」とか「なんで旅行なんか行ったんだ」なんていう発言は,住民すべてを代表するものではないにしろ,冷静さとか理性的な判断と…

冷静な対処を

社会的に大きな混乱が予想される事態が生じた場合には然るべき方々が「冷静な対処をお願いします」と呼びかけるのが常ですが,では冷静ではない対処とはどんなものなのか考えてみると例えば,ちょっとした発熱や体のだるさを自覚したとき「これはニュースで…

イメージ広告の失敗

好感度の高いタレントが宣伝していることで何となく良いイメージを与えることを意図した広告,というのも戦略上はありなんでしょうけど,万が一そのタレントが不祥事を起こした場合には商品自体の価値とは無関係に悪いイメージを持たれるリスクを伴うことに…

医療紛争とメディエーション

これまでいくつかの医療裁判に関する情報を通じて,医療紛争の解決手段として裁判をはじめとした法的システムは相性が悪く,紛争当事者の満足度も低いことが当方にも理解することができました。ではどうすればよいのかという疑問に対する回答のひとつが「対…

善意による医学の否定

数年来糖尿病で通院治療していた患者さんがある時から受診に来なくなりました。約1年経ってから口の渇きを自覚して来院されたのですが,その間はどこの医療機関も受診していなかったとのことで,当然糖尿病は悪化していました。不可解に思って事情を聞いたの…

地雷センサーの感度と指向性

ここ最近,胸痛のない急性心筋梗塞の患者さんが続けて来院。基幹病院に紹介後,何とか経過順調という情報を聞いて少し安心しました。当院のような零細の一般内科開業医の場合,自覚症状が強く重症感のある患者さんというのはあまり受診されないので当然のよ…

最後まで病気と闘うこと

患者さんと医療者のあいだで死生観がどのように違うのかというアンケートが行われたとのことです。 がん患者、最後まで闘病81% 医師は19%とギャップ - 47news がん患者や医師らを対象にした死生観に関するアンケートで、望ましい死を迎えるために、が…

腹水穿刺を行う意味

個別の事例については得られた情報が偏っている可能性が高いため,憶測で議論するのは避けておきます。肝硬変の患者さんに対する腹水穿刺についてはすでに多くのブログで解説されているので今更なのですが,あくまで当方なりのまとめです。とはいっても当方…

医師にも大事な「カネ」の話

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)作者: 西原理恵子出版社/メーカー: 理論社発売日: 2008/12/11メディア: 単行本購入: 71人 クリック: 566回この商品を含むブログ (382件) を見る 今週読んだ本の中の一冊。お金による苦労を味わった作者…

当たり前のこと

昨夜放送されていたドラマ「風のガーデン」を観ていたら,自宅で最後の時を迎えようとしている患者さんのもとに遠くから親族が訪ねてきて,苦しがっているのに驚いて救急車を呼ぼうとして一悶着,という場面がありました。患者さん本人と同居する家族は比較…

出羽の守

医療だけに限りませんが,自国の制度に関する議論をしていると「海外ではこのような優れた制度がある。日本も取り入れるべきだ」という意見が出てきます。もちろん日本より優れた実績を出している制度はあるでしょうし,その制度が一方ではどのようなデメリ…

患者の立場に立つということ

MRIC臨時 vol127「私は医者という仕事をまっとうしたいので患者の立場には立ちません」 一方、医師に対して患者が要求することは、「患者は医師にとって回答し難い(すなわち、治る見込みのない)不安や悩みに対する質問もするが、医師からは、ごまかしのな…

専門家への信頼

患者さん(あるいは非医療者)が医師を信頼することについてはなかなか客観視できそうもないので,自分自身が他の分野の専門家を信頼できるのはどういう状況なのかについて,あくまで個人的な経験を踏まえて,少し考えてみました。 一定レベル以上の議論が成り…

専門性と中立性

専門領域で問題が生じたときに,その原因と対策について議論するのは専門家の方が適任である,というのは妥当な考えだと思うのですが,メディアを通した言説を聞いていると「専門家だけで討論するのは適切ではない」という立場もあるようです。 例えば,大野…

なぜ無罪判決なのか

大野病院「事件」の地裁判決に関して考えるときに,「無罪」という結果はもちろん重要なのですが,「なぜ無罪という判決に至ったのか」を考えることが,医療者だけでなく,医療を受けている,もしくは医療を受ける可能性のある方々にとって必要ではないかと…

8.20

本日,福島県立大野病院「事件」の地裁判決が出される予定です。 公判の傍聴記を拝見する限りでは,被告となった医師は与えられた環境のなかで全力を尽くしており,医療行為としてはきわめて正当であると考えます。患者さんの死亡という不幸な結果は,医師個…

医者は医療をしていた

お盆休みということもあって(?)長文になってしまいました。 福島県立大野病院「事件」の地裁判決を前に,NPO「医療制度研究会」主催の研修会が開催され,産婦人科医師,報道制作者,弁護士の3氏がそれぞれ見解を述べられています。個人的に興味深いのは,こ…

専門用語は難しい

専門家と非専門家のあいだで使う言葉の定義付けが異なっていて,そのせいで意思の疎通がうまくいかないことは,どんな分野にもあり得ることです。日常会話で出てこないような難解な用語であればむしろ専門用語であることはすぐ分かるし,調べることも出来る…

医療ニーズと評価

日本における医療の質は,たとえば健康寿命や乳幼児死亡率といった客観的な指標に関しては世界でもトップレベルであることは以前から言われていますが,一方では実際の患者側から見た主観的な満足度があまり高くないという指摘もあります。当方としてはその…

医師増員は医師不足を解消するか

厚労相が(厚労省が,とはあえて言いません)医師数抑制政策を見直す方針を打ち出しました。これまで絶対数では足りている,偏在しているだけと主張し続けていたことを考えれば画期的なことではあります。 当方の見解は,およそ1年ほど前のエントリで述べた主…

第三者機関の理想と現実

医療事故が発生したときに,きちんとその原因を究明せずにあいまいにしておくことにより,患者側の不信が生じ,再発予防にも生かされないということは以前から指摘されて来ました。そういう反省を踏まえて医療事故を調査する第三者機関のあり方について議論…

社会保障のスキマ

先日往診依頼があった事例。医療も介護も必要な状態でしたが今まで病院を受診したことはなく,高齢の同居家族はどこに相談して良いかも分からず,救急車を呼ぶのもためらわれ,かといって自力で病院へ本人を連れて行くことも出来ず,仕方なく数か月のあいだ…

療養病床削減政策の撤回

<療養病床>削減を断念「25万床維持必要」 厚労省 - Yahoo!ニュース cache 長期入院する慢性病の高齢者向け施設である医療型「療養病床」(25万床)を11年度末までに4割減らす計画について、厚生労働省は削減を断念し、現状維持する方針に転換した。…

日本医師会の大罪4

日本医師会が第三次試案に対する見解をとりまとめているとの情報を僻地の産科医先生のところで知りました。都道府県医師会レベルで「ご意見」を収集するようですが,このレベルであればまだ日本医師会のコントロールが可能と言うことなのでしょう。先日「会…

メディアとブログ2

先日メディアとブログというエントリで「まっとうな記事を書くことが経営側としてのインセンティブ」などという憶測を述べましたが,実はそのあとキャリアブレインの熊田記者よりメールを頂き,内情を若干教えてもらえました。当初,経営側としてはそこまで…

患者と病院のあいだ

こちらが零細開業医ということで油断するのか,診察室で地元基幹病院の不平不満を愚痴る方が結構います。だいたいは待ち時間が長い,話を聞いてくれないといった内容が多く,余裕がない状態でのコミュニケーションの難しさを実感します。たぶん自分が病院勤…

優先順位

集団予防接種の輪番で接種会場に行ってきたのですが,会場周辺の駐車スペースは接種を受けに来た方々の車で満杯。あらかじめ医師用の駐車スペースも用意されているのですが,今回は「接種医師専用」と大書している目の前に堂々と路上駐車している車がいて困…

昔はよかったね

医師に労基法はそぐわない(cache) - 産経新聞 2008/03/27 医師の勤務が労基法に違反している云々(うんぬん)などは、現場の医師にとっては寝言に等しい。医師の激務や待遇の改善は必要だが、今さら労基法を当てにする者など、まずいないだろう。万一、医師…