誰のための助産所


前回助産師の話題が出たついでにこの記事も取り上げます。


(cache) asahi.com: 開業助産所、3割ピンチ 嘱託医義務化に確保厳しく


産科医療に関しては素人同然なのですが,この記事を読んだだけでも「助産所の嘱託医が産婦人科医って当たり前のことでは?」「じゃあいままでどうやって安全性をバックアップしてきたの?」といった素朴な疑問が浮かぶ訳です。一般読者も同様でしょう。まあおおよその答えは見当がつきますが。

少し前に医療ブログの良心「ある産婦人科医のひとりごと」で次のようなコメントを拝見しました。

正常分娩の専門家である助産師の役割は、産科医と緊密に連携し、分娩経過が順調のうちは自然の経過に任せ、分娩経過中に何か異常が発生したら、素早くそれを察知して、なるべく早く産科医の管理に委ねて、母児の命を守るように最大限の努力をすることであるはずです。異常の第一発見者は、常に、妊婦に寄り添っている助産師です。ですから、助産師の役割は非常に重要で、これからも今まで以上に大活躍していただきたいと思っています。

しかし、妊婦に異常が発生しても、素早く反応して産科医の管理に移行させることができない助産師は最悪だと思います。危ないので、そういう助産師とは絶対に一緒に仕事はしたくありません。

http://tyama7.blog.ocn.ne.jp/obgyn/2006/12/post_d6f6_1.html

そういう問題のある助産師が実際にいたのだと推察しますが,であれば

助産所の分娩は安心かもしれないが、安全面で問題がある。一歩進んだ分娩環境の提供を目指すため、あえて厳しいモデルを示した(記事より)

という日本産婦人科医会理事のコメントとも一致します。つまり深刻な産科医不足の状況では助産師が正常分娩を管理して産科医の負担を軽減することは重要。しかし異常分娩が生じたときのバックアップがすぐに得られない状態で助産業務を行うべきではない,ということでしょう。しごく真っ当な意見です。

モデル案は助産師の開業権を事実上、侵害する

嘱託医と、救急搬送先となる連携医療機関を同じ病院(医師)が兼務できるようにしてほしい

後方支援機関として嘱託医を残すべきだと主張し、確保に協力すると言ったのは産科医会だ。安全なお産のために積極的に嘱託医を引き受けてほしい

という助産師側のコメントは「助産師は好きなところで開業したい。よけいな注文はつけないで異常分娩を引き受けろ。安全性を確保するのは産科医の責任だ」と主張しているように聞こえます。これでは産科医と助産師の信頼関係が構築できませんし,母児の安全性を少しでも向上するという本来の目的にも合致していないように思えます。

以上専門外分野のコメントにつき不適当であれば指摘願います。


以下は記事本文。

開業助産所、3割ピンチ 嘱託医義務化に確保厳しく

2007年02月10日01時29分

 年間約1万人、全国のお産の1%を担う開業助産所が存亡の危機に立っている。4月施行の改正医療法で、産婦人科の嘱託医を持つことが義務づけられたのに、日本産婦人科医会が産科医不足などを理由に、厳しい条件の契約書モデル案を示したためだ。NPO法人の緊急アンケートでは、嘱託医確保が「困難・不可能」が3割にのぼる。

 嘱託医確保の猶予期間は施行から1年。来年4月までに嘱託医が決まらない助産所は、廃業せざるを得ない。

 「産む場所の選択肢を奪わないで下さい」

 9日、助産師や産婦たちでつくるNPO法人「お産サポートJAPAN」が、厚生労働省で会見を開いた。同時に発表した全国の分娩(ぶんべん)を扱う開業助産所330全施設対象のアンケート結果によると、「嘱託医が確保できる」は38%。「不確実だが見込みがある」30%、「困難」21%、「不可能」が7%だった。

 出産時の異常で、助産所から病院・診療所に搬送されるのは約1割。同NPO代表で助産師の矢島床子さんは「安全性確保には医療のバックアップは必要。でも、助産師が自力で嘱託医を探すのは難しい」と話す。

 一方、日本産婦人科医会は、助産師は独立開業より院内助産所の形を取るべきだとする。昨年末には「嘱託医契約書モデル案」を発表した。「助産所は嘱託医に委嘱料を支払う」「妊婦を転送したケースについては、助産所が訴訟費用などを補償する」「助産所は十分な資力を確保しなければならない」など、厳しい内容だ。産科医不足の上、転送を受けた病院が訴訟の対象となる例が相次いでいる事情がある。

 神谷直樹常務理事は「助産所の分娩は安心かもしれないが、安全面で問題がある。一歩進んだ分娩環境の提供を目指すため、あえて厳しいモデルを示した」と話す。

 日本助産師会は「モデル案は助産師の開業権を事実上、侵害する」として、厚労省に「嘱託医と、救急搬送先となる連携医療機関を同じ病院(医師)が兼務できるようにしてほしい」と要望した。同省看護課も「後方支援機関として嘱託医を残すべきだと主張し、確保に協力すると言ったのは産科医会だ。安全なお産のために積極的に嘱託医を引き受けてほしい」と話している。