医療訴訟は医療ミス削減に寄与するか


不勉強で医学ジャーナリスト協会というものが存在することも知らなかったのですが,この協会主催の「医療訴訟は医療ミス削減に寄与するか」と題するシンポジウムがあったとの記事です。実際に参加したわけではないのですが,パネリスト4人のうち3人は「寄与する」という意見であり,この記事からは医療訴訟(この記事ではおそらく民事訴訟を念頭に置いていると思われます)に肯定的な論調です。


もちろん個人が紛争解決のために訴訟を起こす権利を否定することはできませんが,当方は再発予防という観点から見たときには必ずしも有意義ではないと考えます。これに関してはパネリストのおひとり(患者側)が的確な指摘をされていて,

病院を訴えたのは,ミスを認めなかったため」と提訴の経緯を説明。しかし,訴訟は裁判所を舞台とした対立であり,両者の主張が真っ向からぶつかるため,「歩み寄るプロセスとはならず,再発防止対策の導入など病院の医療の質の向上に寄与していないかもしれない

製造業では当たり前の仕組み,再発防止対策が医療では欠けているのではないかと疑義を呈し,「患者本位の医療という原点に立ち戻って,再発防止につながるプロセスを作っていってほしい」と語った

これがおそらく医療事故再発予防に関する議論における最低限の前提であると思います。確かに司法側パネリストが仰るように

医療事故に対する社会的システムがなかったため「直接的に寄与することはないかもしれないが,間接的に寄与させる方法がこれしかなかった

という面はありましたが,そうであれば医療事故に対処するシステムを作るべきであるという議論になってもいい訳で,医療訴訟を肯定する根拠とはならないでしょう。ちなみに公平を期したという形をとるためか医師,患者,司法から一名ずつパネリストが出席していますが,医師側からの発言として

医療訴訟を減らす,なくすために必要なこととは

という質問に対し,

医師は医療行為を行って人生を過ごしているので,一生懸命集中すること

と回答されています。医療訴訟は医師個人が一生懸命集中することでなくすことができる(すなわち一生懸命でないために医療訴訟が起きている)という見解には全く了承できませんし,決して医師サイドを代表するものではないと思います。もっとも特定の主張を納得させようという意図があれば,訴訟における鑑定人を見ていれば分かるように,有利な発言をする人物に証言させるというのは当然の作戦ですし,それが医師であればより効果的なのかも知れません。


例によって司法に関しては専門外のため不正確,不適切な点があればご指摘下さると幸いです。