ウイルス性肝炎と予防医療


肝炎検査の委託、東京と福岡のみ 自治体、負担増嫌う(Cashe) 朝日新聞 2007年07月24日


肝細胞癌特定の発癌因子が分かっていて予防する手段もあるわけですから,まさしく厚生労働省の提言する予防医療の対象だと思います。一番多いC型肝炎について言えば感染後20〜30年の期間を経て慢性肝炎→肝硬変→肝細胞癌という経過を辿るのですが,病状が進行するほど雪だるま式に医療費がかかるように思えます。肝硬変が進むと肝不全や門脈圧亢進症に伴う合併症(脳症,静脈瘤)の頻度が上がってくるのでその治療も必要になります。肝細胞癌というのは再発率が高いですから,発見時に手術や局所治療が出来てもそれで終わりではなく,再治療,再々治療ということも多々あります。そのたびに治療とそれに伴う検査,投薬の費用が発生し,当然一定の入院期間を要します。


確かに肝炎のスクリーニングを行いさらに抗ウイルス療法(インターフェロンなど)を行うには莫大な費用が必要です。健康に関わることだから金に糸目をつけるべきでない,とまでは言いませんが,放置した場合にどの程度医療費が増大するのか,さらに社会的損失がどの程度か,介入により長期的に医療費が節約できるかどうかを評価してから社会的・政治的な判断を行うのが筋だと思います。実際は発癌したあとの臨床経過・治療方針があまりにも多岐にわたるため評価はかなり困難なのですが,何の検討もせずに単純にお金がないから出来ないよ,というのでは余りに無策です。


肝炎ウイルス感染は薬害というカテゴリーで報道されることが多いようですが,輸血・血液製剤の投与歴等もなく原因を特定できない場合も多く*1,責任の所在がはっきりしないと救済しないというのでは実効が得られませんし公益にも反します。東京都のような裕福な自治体であれば,

受診者の利便性が高まるし、早期発見は医療費の抑制にもつながる

といった余裕の発言も出来るのでしょうけど,多数の地方自治体にとっては無い袖は振れないのが現状かも知れません。治療介入どころかスクリーニングの段階でこの有様では先行きは暗いです。国がもう少し負担しても良いんじゃないでしょうか。ウイルス性肝炎は感染対策が可能になってから新規発生は激減していて,患者数はおそらくあと20年もすればかなり下火になる筈なので,際限なく出費が続くわけではないという点が多少なりとも前向きな材料になるでしょうか。

*1:HBV感染と予防接種との因果関係を認定する判決が昨年出された。