福島県立大野病院事件公判


ロハスメディカルブログ - 福島県立大野病院事件第七回公判 (1) / (2) / (3) / (4)

ロハスメディカルの川口氏による公判傍聴レポート。今回は産婦人科医師への被告人質問です。まだレポートも途中なのですが,読んでいて早くもうんざりというか,陰鬱な気分に襲われます。

以前■原因追及と責任追及のエントリで一度紹介したことのある郷原信郎氏の講演*1から,元検察官として取り調べの過程を説明されていた部分を引用します。

 まさに予見可能性のところが一つのポイントになります。そういう予見可能性があるかどうかも含めて、被疑者の側が「私に過失がありました、私の落ち度です。」と言って自認するかどうか。これは実は捜査のかなり大きなウェイトを占めます。なぜかというと色々理由があります。検察官がその後、起訴をするか不起訴にするか決める際に有罪の確信が、通常起訴の要件という風に検察では考えています。有罪になるかどうかはっきりしない、確信が持てない時は不起訴になるということです。そうすると、まず有罪になる確率は、否認事件と比べたら圧倒的に自白事件の確率が高い。裁判所に行っても事実関係を争わずに、「私が悪うございました。私の落ち度です。」と認めてくれれば有罪になる可能性が高いし、起訴される可能性も高い。一方で否認をしている場合は不起訴になる場合が多い。そういった処分を反映した形で、捜査の最終段階の調べは、とにかく「自分の落ち度だ。自分の過失だ。」と認めさせるための押し問答がかなりあります。必ずというわけではありませんけれども、それが捜査官、そして処分を与える検察官に安心をあたえることは確かです。

「...と認めさせるための押し問答」と言うとあっさりしていますが,実際は傍聴記を読めば分かるように手段を選ばない相当に激しく陰湿なものです。本来は海千山千の凶悪犯を起訴に追い込むための戦法なんでしょうけど。建前としては「過失がないと確信しているなら否認を続ければいい」ということになるのかも知れませんが,被告人質問を読んでいるだけでもかなり辛いものがあり,実際に自分が取り調べを受けて執拗な質問を受けたと想像したらとても耐えられる自信はありません。付け加えるなら,自分に与えられた環境で最善を尽くした挙げ句に凶悪犯に等しい扱いを受ける光景を見て心が折れ,医療の第一線から離れる医師がいたとしても,それを責めることは誰にも出来ないと思います。

*1:「日乗連AA委員会 航空安全シンポジウム in TOKYO」:PDF