「かかりつけ医」制度による医療費抑制


75歳以上の医療費抑制、在宅医療に軸足・厚労省骨子案(cache) - NIKKEI NET

 厚生労働省は4日、来春に始まる75歳以上の高齢者向け医療保険制度の診療報酬体系の骨子案をまとめた。膨張する高齢者の医療費を抑えるため、長期入院を減らし在宅医療に軸足を移すよう報酬体系を見直す。患者の病歴や服薬状況を一元的に管理する「かかりつけ医」的な役割を担う医師の報酬を優遇することで、投薬や診療の重複を防ぐ。過剰医療を減らし、効率化を進めることに重点を置く。

 同省は骨子案を、4日の社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の「後期高齢者医療の在り方に関する特別部会」に提示した。10月中にも中央社会保険医療協議会中医協)に報告し、2008年度の診療報酬改定に反映する。

 骨子案では外来、入院、在宅、終末期医療について、それぞれ医療機関に払う診療報酬で評価すべき事項を示した。外来医療では、患者の病歴や他の医療機関での受診状況といった情報を一元管理する医師への評価を上げることなどを盛り込んだ。患者の情報を集約する「かかりつけ医」のような医師を増やし、患者に余計な診療を他の医療機関では受けさせないようにするなどして重複診療などを防ぐ。


時期的に観測気球の記事かも知れませんけど,入院の制限と外来診療の定額制とかかかりつけ医制度で医療費を抑制しようという見解は去年から出ていましたから(→■アクセス制限とコスト)おそらく既定路線なんだと思います。高齢者の外来受診を抑制することにより疾患の発見が遅れてかえって医療費が増大する可能性もある点については「在宅医療に軸足を移す」ことで解決(と言っていいのか分かりませんが)するということなのかも知れません(→■最期は自宅で2)。介護による社会的なコスト増大を無視すればですが。


厚生労働省のこの案が実現するとして,当方の立場を考えると,おそらく「かかりつけ医」としての役割が課せられると予想されます。診療所の経営を成り立たせることを考えれば,どれだけの患者の「かかりつけ医」として登録されるかが重要です。いかにして「かかりつけ医」として登録していただくか,そして他に逃げないかを考えざるを得ないことになります。


単一の診療所で全ての疾患を診察するというのは一見効率的なようですが,30年前ならともかくある程度の医療水準を保とうとすれば診療所にとっては必要な検査機器や設備が多くなって経営を圧迫します。しかも定額制ということであれば設備投資も回収できません。医師が必要と考えても必要な医療が行えず,医療水準が下がって,結局のところ患者さんが不利益を被る訳です。医師としても不本意なのですが,当然患者さんも納得して頂けないでしょう。小規模な診療所は淘汰される可能性も高いと思われます(当院のことか...)。


在宅に関して言えば,現在「かかりつけ」の患者さんを数名受け持っています。現在曲がりなりにも病院や老健という選択肢がある中で在宅を選択したケースということもあり,ご自身とご家族の在宅医療・在宅介護に対する理解はある方だと思うのですが,それでも現実に提供できる医療・介護と希望の落差に不満をお持ちになることが珍しくありません。今後ご自身,ご家族の意志にも関わらず入院から在宅への誘導が行われ,「かかりつけ医」以外の診療を制限された場合,医療者あるいは介護者と患者側に生じるトラブルは容易に予想できます。


一方で「かかりつけ医」であれば診療時間外であっても患者さんの求めに応じて医師が対応する必要があるんでしょうし,ご本人・ご家族もそれを当然それを期待していて,そのようにしろという厚生労働省の方針なわけです(→■開業医も動員3)。医師が「かかりつけ医」として拘束されることによる負担というのは「かかりつけ医」の議論の中であまり出てきません。これから出てくる反発に対して布石は打っているようですが(→■開業医の時間外労働)...。患者さんにしてみればいつでも対応は当然という発想であまり気にならないのかも知れませんが,結果として「かかりつけ医」にとって負担の大きい患者さんが「かかりつけ医」難民となることも予想されるわけで,医師の負担についても考慮したシステムにしないと弊害が乗じると思います。


「かかりつけ医」は患者側にとっては「かこいこみ医」であり医師にとっては「しばりつけ医」ということになるんでしょうか。患者さんにとっても医療者にとっても明るい材料は見あたらないようで,気が重くなります。柄にもなく長文になってしまいましたが,不正確・不適当な点があればご指摘下さい(できれば当方が心配しすぎであるという方向で)。