混合診療禁止は法的根拠なし

これまで混合診療は公的保険の対象外になることにより実質的に禁止されてきた訳ですが,それには法的な根拠がない,という画期的な判決が出たようです。


「混合診療」禁止は違法、東京地裁が国側敗訴の判決(cache) - 読売新聞 2007年11月7日

 訴訟では、混合診療の原則禁止という国の政策に法的な根拠があるかどうかが最大の争点となった。

 国側は「健康保険法で保険の適用が認められているのは、国が安全性や有効性を確認した医療行為。自由診療と組み合わせた診療は保険診療とは見なせない」などと主張。これに対し、判決は「保険を適用するかどうかは個別の診療行為ごとに判断すべきで、自由診療と併用したからといって本来保険が使える診療の分まで自己負担になるという解釈はできない」と、国の法解釈の誤りを指摘し、混合診療禁止に法的根拠はないとした。

 また、国側は、混合診療ができるケースを健康保険法が例外的に定めていることから、「例外以外は禁止できる」と主張したが、判決は「法律などには、例外以外の混合診療がすべて保険の対象から排除されると解釈できる条項はない」とし、原告には保険を受ける権利があると結論づけた。

 ただ、判決は「法解釈の問題と、混合診療全体のあり方の問題とは次元の異なる問題」とも述べ、混合診療の全面解禁の是非については踏み込まなかった。


具体的な法律論に関しては分かりませんが,この記事からは,混合診療を禁止すること自体が悪い,というよりは法的根拠なしに自由診療を実質的に制限していることが問題である,と受け取れます。法律を整備さえすれば混合診療を禁止するのは可能とも解釈できます*1。上訴すれば上級審で判断がひっくり返ることもあり得ます。

とはいってもすでに医療ブログ界隈で指摘されているように,国側がそもそも皆保険制度を現状のまま維持することに拘っているのでなければ,法解釈を争わずにこの判決を受け入れるという選択もあり得るわけです。そうであればむしろ,建前上は皆保険制度の前提である混合診療禁止は崩せないと主張してきた以上は自分からやめるとは口が裂けても言い出さないでしょうから,この判決はいい口実になるのかも知れません。

現在の皆保険制度に不備がないとは言いませんが,「受けたい治療が自由に受けられない」という面のみを捉えて否定するのは正しくないと思います。にも関わらず,この判決に関する報道において皆保険制度のデメリットを殊更に強調する*2ようなら,そこには何らかの意図があると思った方が良さそうです。

実際に混合診療が始まったらいずれ皆保険制度は実質的に機能しなくなる可能性が高いでしょう。メディアはそうなってようやく事態の重大さに気が付く(ふりをする)のかも知れません。皆保険制度の受益者であった多くの国民はどういう選択をするんでしょうか。映画「SiCKO」に登場したイギリスの議員は「NHSがなくなったらイギリス国民は革命を起こすだろう」*3とコメントしていましたが...。

 

*1:具体的に実現可能なのかは分かりませんが。

*2:もちろん原告となった方が皆保険制度のデメリットを強調するのは当然です。

*3:ちなみにそのあと「国民をコントロールするためには教育と健康を与えないことだ。士気を奪われると投票にも行かなくなる」と続きます(うろ覚え)。