肝炎患者の救済2


限定救済、原告は拒否 大阪高裁、和解案提示 薬害肝炎(cache) - 朝日新聞 2007年12月14日


今回の「薬害」肝炎訴訟で救済の対象となったのはフィブリノーゲン製剤による肝炎患者のごく一部ですが,フィブリノーゲン製剤にしても数ある血液製剤の一つにすぎないわけですから,詳しく調べれば他の血液製剤による「薬害」肝炎もいずれ確認されるのは容易に予想が付きます*1。さらに,血液製剤を投与されたことがないC型慢性肝炎の患者さんが相当数(血液製剤による感染よりおそらく多い)いて,こうしたケースの感染経路は予防接種等が推測されていますが証明は困難です*2


裁判により国と企業の責任を追及して金銭的補償を受けるという方法では,どうしても裁判によって被告の責任が認定された対象しか救済されないことになります*3。国とすればこれ以上ウイルス性肝炎にはびた一文も出したくないんでしょうから「線引きしなければ救済対象者が際限なく広がる」というのはある意味素直なコメントかも知れませんが,大部分の「誰のせいでもない」肝炎については,責任が認定された肝炎患者との交渉とは別に,一律にウイルス性肝炎の治療費に対する補助を行ってもいいように思います。以前に述べたように,これは倫理的な側面からだけでなく,医療経済学的にもメリットがある可能性が大きいと考えられます。


付け加えると,別のエントリで「ウイルス性肝炎は感染対策が可能になってから新規発生は激減していて,患者数はおそらくあと20年もすればかなり下火になる筈なので,際限なく出費が続くわけではないという点が多少なりとも前向きな材料になるでしょうか」と述べましたが,これは性善説による解釈であって,逆に言えば「下火になるまで裁判で粘り続ける」という作戦もあり得る訳です。現実に国がそんな最悪の戦術を採用しないことを願うばかりです。


*1:実際に,ハプトグロビン製剤とコリンエステラーゼ製剤からC型肝炎ウイルスが検出された。→http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20071213-OYT8T00215.htm cache

*2:HBV感染と予防接種との因果関係を認定する判決が昨年出されたが,これも限定的。

*3:肝炎ウイルスに関する当時の知見を考慮すれば,血液製剤の投与と感染の時期が一致したからといって,必ず責任を問えるとは限らない。