懇切丁寧な5分間診療4


先日の中医協で外来管理加算の「5分間」要件について医師会理事である委員から追求があったようです。事務局(厚労省)側の苦しい弁明に関してはYosyan先生のところで検討されていますので当方が追加することはないのですが,会議の場では支払側委員からも補足する発言がされています。

支払側の対馬委員は、調査がどういったものだったか分からないが、外来管理加算の問題は診療所の再診料引下げとあわせて、我々があらゆる角度から議論した筈で問題ないとしている。

調査とは別に十分検討を加えたので問題がないとの見解ですが,それではこの「5分間」要件についてどれくらい「あらゆる角度から議論」したのかもう一度確認するために,中医協の議事録を見直してみました。時間はかかりましたが,たまたま今日は休日当番医なので…。なにぶん膨大な文章なので見落としがあるかも知れませんが,当方なりに要旨をまとめてみます。


診療報酬基本問題小委員会(平成19年12月7日)で事務局の原医療課長が問題の「内科診療所における医師一人あたりの、患者一人あたり平均診療時間の分布」を提示したうえで「大体5分以上の医療機関が9割ぐらい」との見解から時間の目安を設けることを提案しています。当然のように診療側の委員は「単純に時間で評価することは問題」と反論しますが,原課長は「患者側は時間なり書類なり何らかの形がないと納得しない」と主張,委員長裁定でこの件は保留となっています。


小委員会(平成20年1月16日)でも再度「医療の質を時間で評価するのは問題」「何もしないのでは患者が納得しない」という議論となりますが,結論は留保。小委員会(平成20年1月18日)にて原課長から「書面という形も検討するがいまのところ時間で区切るしか案がない」と説明があり,委員長の裁定で両論併記の上でパブリックコメントにかけることで決着。これ以降議論は小委員会から総会に移ります。


中央社会保険医療協議会総会(平成20年1月30日)にて支払側,診療側の双方から時間で評価することに対する異議が出されるも,土田会長から,患者側の同意が得られるような外来管理加算の基準が必要であること,再診料を据え置く以上は外来管理加算から財源を捻出する必要があるとの意見があり結論保留。


総会(平成20年2月1日)にて事務局(原課長)より「外来管理加算の意義付けの見直し」として外来管理加算を算定するにふさわしい診療内容(下図)が提示され,5分は必要であろうという説明がされます。

これに対して支払側委員より,こんなあいまいな基準で必要な財源が捻出できるのかという疑問が出されますが,それに対しては診療数が1時間に12人,6時間で72人を明らかに越えていれば指導の対象になるし,それで診療側に充分な抑制効果はあるだろう,という事務局の回答です。さらに,

先ほど言いましたように、診療時間、私どもの医療課で夜間に延長するときの都道府県調査をやりましたので、その診療時間というものは当然分かっておりますので、総診療時間にそれこそ12を掛ければマキシマムは出てきます。

と説明しています。ここでいう「調査」というのは12月7日に出てきた「内科診療所における医師一人あたりの、患者一人あたり平均診療時間の分布」以外にはないと思われますが,これが5分の根拠だと明言しています。よく見れば「夜間に延長するときの」と言っているのに,それを通常診療に適応することに誰もツッコミを入れないのもちょっと不思議ですが…。
診療側委員が「診療内容が重要であって時間要件を強調するべきでない」と主張するも,ここから財源を捻出する以上確実に加算をコントロールするべきだと反論されます。それ以上議論が進展しないまま,会長の裁定で

いろいろ御意見承りましたが、そういうことで、ここは一応基本的に合意をいただいたということでよろしいですか。どうもありがとうございます。

となり議論終了となります。この回が「5分間」要件について実質的には最後です。


総会(平成20年2月8日)では寄せられた膨大なパブリックコメントの一項目として紹介するにとどまり,外来管理加算についても賛否両論の意見が紹介されていますが,特に議論はされていません。総会(平成20年2月13日)は完成した答申書を舛添厚労省に手渡すというイベントが予定されていたため時間の制約もあり,答申案をざっと説明するセレモニー的な会議です。


こうしてみると「あらゆる角度から議論」とされる内容は,主に「再診料を据え置くかわりの財源をどこから出すか」や「外来管理加算を算定することにどういう理由付けをするか」といったもので,「時間で診療の質を評価することに妥当性があるのか」とか,ましてや「5分という基準は適切なのか」に関しては議論のたびに先送りにされた挙げ句に,最後はうやむやになっているようです。根拠となる資料は探したのですが,上で紹介した「平均診療時間の分布」と「外来管理加算の意義付けの見直し」くらいしか見あたりませんでした。


結局はゼロサムゲームの中でどこを削るかという議論の中で,削る理由として「診療の質を上げる」という名目を後付けしたというのが実際のところなんでしょう。だからこそ支払側としては後日問題を指摘されても「議論は十分した」と言い張るしかないのかも知れません。あくまで後付けの名目というのが暗黙の了解なので,根拠があまりにもお粗末だったにもかかわらずそこにツッコミを入れるひとがいなかったのかなというのが勝手な感想です。個人的には,本来であればそんなに重要なテーマを,外来管理加算を算定するかしないかという議論に矮小化すること自体が疑問ではありますが。