医療改革と厚生労働省

医療改革―危機から希望へ

医療改革―危機から希望へ

小泉政権から阿部政権にかけての医療政策を分析した二木立先生の著作です。本来であれば今年度の医療政策について議論していた昨年末くらいに読んでおくべきだったかも知れません。それでも当方としては勉強不足を補ってくれる興味深い内容でした。


2001年に小泉政権が発足してから医療分野における新自由主義に基づいた「改革」の方針が盛り込まれ,経済財政諮問会議が中心となって混合診療全面解禁を主張しました。医療に市場原理を持ち込むことに関しては厚生労働省,医療者(医師会・医療団体)はともに抵抗し,2005年になって,結果として混合診療全面解禁は政治的判断により見送られることになります。

その一方で医療費抑制はさらに強化され,これを機に厚生労働省が自らの権限を強化し,根拠のない診療報酬改定を行った(本文中では「虎の威を借る狐的改革」「火事場泥棒的改革」と表現されています)と分析されています。

その後2005年9月の郵政選挙での圧勝により医療費抑制とともに経済財政諮問会議の勢力がやや復活をみせるものの,2007年9月に阿部政権が発足,医療費抑制政策の一部を見直し,新自由主義陣営の影響力は再び低下したとしています。象徴的なのは,米国にならった市場原理の導入を主張していたあの八代尚宏氏が,突如「カナダ型」に主旨替えしたことです。

さらには,(2007年7月の時点で)今後の見通しとしては,医療費抑制により医療崩壊が進行し,当事者が声を上げ,メディアの論調が変化したことを受けて部分的ではあるが政策転換が生じていることは「一筋の希望」であると述べられています(以上,当方の理解に誤りがあればご指摘お願いします)。


これまで当方は厚生労働省の政策について,生意気にもいろいろとツッコミを入れてきました。ただその背後には政府の医療費抑制政策という大方針が多少なりともあるわけで,そこに関しては厚労省が責められる筋合いはないのでしょう。少なくとも混合診療解禁については有害無益で医療費を抑制する効果もない,という正しい認識は持っている訳です。

メタボ検診や5分ルールのように明らかに根拠がない政策や,年金問題のような行政運営上の不手際については責められるべきだし,医療事故調査委員会のように本来外部に置くべき権限を手放さないのは確かに問題です。とはいえ,それなら厚労省官僚から権限を取り上げればそれでいいのかといえば,上記の経緯も念頭に置いて考えると,そう単純な話ではないんだろうなという気はします。