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白衣の蟻たち


白衣の蟻たち―医療崩壊と再生

白衣の蟻たち―医療崩壊と再生

医療崩壊系書籍としては比較的レアな部類かも知れませんが,アマゾンの関連商品で気になったので購入。一応フィクションということですが,著者の経歴から察するに,ご自身の経験と重なるところが大きいように思えます。


主人公は経済成長を背景に医療に明るい未来が約束されていると信じられていた時代に大学医局で過ごし,基幹病院内科部長として医療費抑制政策による厳しい医療経営を,僻地市民病院院長として地域医療崩壊をそれぞれ身をもって経験することになります。医局側から医療崩壊を描いた部分については,非医療者が雰囲気を含めて知る上で有用かと思います。また,以前取り上げた「壊れゆく医師たち」でもそうでしたが,この世代の先生方が医療に対する価値観の変遷に対して複雑な思いを抱いている背景は,すでに医療費抑制が始まってから医師になった当方にとっても興味深いものがあります。


最終的にはある出来事を契機に地域医療を支えてきた心が折られ,病院を去って開業するわけですが,その辺りから著者の予測に基づく「近未来小説」に突入します。とはいえそれほど突拍子もない展開というわけでもなく,経済諮問会議の発言力を背景に医療に市場原理が導入されるようになって医療機関の格差が拡大し,さらに包括医療制度により多くの個人開業医は経営悪化に追い込まれ,主人公も連日在宅診療で心身を削る生活を送らざるをえない,というものです。まあこれもありそうな話だろうなとは思います。


主人公によって代弁される著者の主張としては,専門医と一般医をそれぞれ国家レベルで認定し,はっきりと区別することで「無駄」な診療が減る筈なので,そうした医療制度改革が必要,ということのようです。それが副題の「医療崩壊と再生」の「再生」にあたるということになるのでしょう(本編では再生する兆しは全くありませんが)。確かに現状で戦力,特に専門医の消耗を少しでも減らすためにはゲートキーパーが必要だというのは同意できます。ただその反面,「念のため」「安心のため」に結果的には「無駄」となるかもしれない診療を要求されている側面もありますから,一概に医療側が「無駄だからしません」といって解決するわけでもないあたりが厄介ではないかという気はします。