過労死と安全配慮義務2

小児科医師過労死民事訴訟に関する全国紙の記事が出揃いました。業務が過重であったこととうつ病発症のあいだに因果関係がある,つまり過労死であることは認定しながら,病院側の安全配慮義務違反は認めなかったという点について各紙はどう伝えているのでしょうか。

その上で、病院に損害賠償責任があったかどうかについては「疲労や心労が蓄積して健康を損ない、何らかの精神障害を起こすおそれを、病院が具体的客観的に予見できることが必要だ」と判断。一方、中原医師が病院側に相談しなかったから、病院は異変を認識できなかったなどとして、遺族側の主張を退けた。

小児科医死亡「過労と自殺、関係」 高裁、賠償は認めず - 朝日新聞

判決によると、中原医師は1999年1月、同病院の小児科部長代行に就任したが、同科の医師2人の退職に伴い、多い月には自ら8回の当直をこなした。その後、うつ病を発症し、同年8月、同病院の屋上から飛び降り自殺した。判決は、中原医師が業務を問題なく処理していたことから、「病院側がうつ病の発症に気付かなかったのも、やむを得ない」と判断した。

うつ病発症で小児科医自殺、2審も病院側の過失否定 - 読売新聞

1審は過重労働を否定したが、高裁は「業務が大きな負荷を与えた」として過重労働とうつ病の因果関係を認めた。ただ、病院側の責任については「精神障害を起こす恐れを具体的に予見できず安全配慮義務を怠ったとは言えない」と判断した。

小児科医自殺:遺族が2審も敗訴 東京高裁が請求棄却 - 毎日新聞

鈴木裁判長は「11年3月以降、当直が増えるなどの過重な勤務で鬱病が発症した」と指摘。1審では否定していた仕事と自殺の因果関係については認めたものの、「職場での言動などに変化はなく、業務をそれなりにこなしていた。病院側は異変を認識できなかった」として、病院側に賠償責任はないと判断した。

過労で鬱病に…小児科医自殺 2審も遺族の訴え退ける - 産経新聞


同じ判決文を各紙の記者が要約しているのでしょうけど,まとめると「医師の言動に問題がみられず,業務を支障なく行っていたために,病院側はうつ病の発症を予見できなかった。よって安全配慮義務違反には当たらない」ということになります。いかに常軌を逸した労働環境に置かれていたことが明らかであっても使用者側の責任は問われないというのは正直納得しがたいものがありますが,そこは判例に沿って「予見可能性」が認められないといけないようです。


このあたりは,どうも「うつ病による自殺は事前に異常な言動があって察知することが可能である」という前提があるように思えるのですが,実際のところ「後から考えればそうかもしれないけど,そのときは気が付かなかった」とか「普段と同じで全然気が付かなかった」というケースだっていくらでもあるわけです。法律の素人としてはむしろ,「これだけ常軌を逸した業務をこなしていたらうつ病を発症しても不思議はない」とあらかじめ認識して対処するべき,という「期待権」は認められないんだろうかと思ったりします。