総理大臣の発言について


各種メディアが取り上げていますが,比較的再現性が高そうなソース(それでも断片的ですが)から引用。

(出席知事の医師不足に関する発言に対し)医者の確保をとの話だが、自分で病院を経営しているから言う訳じゃないけど、大変ですよ。はっきり言って、最も社会的常識がかなり欠落している人が多い。ものすごく価値判断が違うから。それはそれで、そういう方をどうするかという話を真剣にやらないと。全然違う、すごく違う。そういうことをよく分かった上で、これは大問題だ。

小児科、婦人科(の医師不足)が猛烈に問題になっているが、これは急患が多いから。急患が多いところは皆、人が引く。点数が入らない。点数を変えたらいいんです。これだけ激しくなってくると、医師会もいろいろ、厚生省も、5年前に必ずこういうことになりますよと申し上げて、そのまま答えがこないままになっている。

これはちょっと正直、これだけ激しくなってくれば、責任はおたくらの話ではないですか。おたくってお医者さんの。しかも、お医者の数を減らせ減らせと言ったのはどなたでしたか、と申し上げて。党としても激しく申し上げた記憶がある。臨床研修医制度の見直しについてはあらためて考え直さなきゃいけない。

首相の医師をめぐる発言要旨 全国知事会議 - 47news


一段目の発言が槍玉に挙がっているようですが,当方が「まともなお医者さん」ではないためか,ここはさほど「不快な思い」はしませんでした。医師という職種の特性を外部から見たときに一般の常識と違うと思われることはなんとなく想像できます。それはなにも悪い面だけでなく,これまで日本の医療が低コストでアクセスとクオリティを保ちながらどうにか維持されていたのは,職場を変わることは他業種に比べて容易なのにも関わらず非常識な労働環境に甘んじる方々に支えられていたからであって,それだって客観的に見れば「社会的常識」が欠落しているということになるんでしょう。それが「価値判断」の違いと言われたらその通りです。一般社会の常識を求めるとなれば,おのずからそうした「価値判断」を否定することにもなります。


二段目の,医師不足に関する認識も「モラルの問題」なんかではなく医療ニーズの問題だと仰っていますがその通りだと思います。点数を変えたらそれでいいというのは安直ですが,強制配置とか他のところを下げろと言うよりは数段マシでしょう。


となると三段目の「責任はおたくらの話ではないですか。おたくってお医者さんの」という発言とどうもうまく繋がりません。メディアのフィルターを通って大事なところが省略されたのではないとすれば,「もっと早くあきらめずに無理して働いた医師が悪い」と解釈できそうですが,であれば医師としては「責任」を全うするために,医療崩壊は不可避であることをもっと強く主張すべきということになりますね。


一つ疑問なのは「お医者の数を減らせ減らせと言った」医師会や厚生省(当時)も悪いとの主張ですが,かつて現職の大臣が「不足ではなく偏在」と仰ったのは記憶にあっても,自民党の政治家が医師は足りないから増やせと「激しく申し上げた」という話は不勉強で初めて聞いたのですが,一体いつ誰がそのような主張をしたのか,ご教示いただけると幸いです。

追記(2008-11-21 7:00)

よく考えてみれば,「不快な思いをしない」も何も,同じような事を以前エントリに書いていたことを思い出しました。何だか生意気な文章ですが,ブログというものを始めて2か月目なのでその辺は大目に見てください。

世間一般の価値観からすれば変人以外の何者でもない。とはいえ変人には変人の使い方があり,権力者や雇用者からすればうまく制御すればいくらでも働く比較的扱いやすい人種だと思う。何より団結して反乱を起こす心配がないのだから奴隷には最適である。最近報道されているようになった「医師不足」の一因は,あるいは最近になって医師が世間並みの常識を身につけて職場を選ぶようになってきた事にあるのかも知れない。

■医師という職業の特性 2006-06-12