NHK「医療再建」を見てみました


前回のエントリで取り上げたNHKの医療特番を録画しておいたので先ほど見てみました。タイトルは「医療再建」ですが,内容を要約すれば結局「医師の計画配置は可能か?」ということになるのでしょう。VTRの内容,提示されるデータ,司会者のコメントはすべてこのテーマに沿うようになっていました。そもそも「計画配置によって医療は再建できるのか」という点はどうなのかと思うのですが,そのあたりは議論になっていなかったので,どうやらすでに自明であるという前提のようです。医療ニーズの増加が医療崩壊の主因であると考えれば,計画配置もまた姑息的対策に過ぎない訳ですが…。


パネリストが厚労省医政局の戸口氏,日本医師会理事の竹嶋氏,そして勝村久司氏(肩書きは中医協委員でした)の3名で,主に勝村氏が医師の計画的配置を積極的に主張する役割で,テレビに映っている時間も一番長いようでした。医政局の戸口氏は「短期的にはインセンティブによる誘導を」とのことでしたが,計画的配置が必要かという問いに対しては「その通りです」との答え。医師会の竹嶋氏は医師の自律性が重要であると主張していましたが,司会者が幾度となく「医師会が主体となって計画配置を進める」との言質を取ろうとしているのが印象的でした。最後は「医師会に宿題として持ち帰ります」みたいなことを仰ってましたが,流れとしては同意したということにされた感じです。


メディアの建前として両論併記という形は取っていましたが,研修制度改定のあと医療崩壊が進行したという話題を振った後に「医師の自律性に任せる」と「医師を計画的に配置する」の選択肢を提示すれば,当然大多数の方は後者を選ぶことになります。このあたりはかなり露骨な世論誘導といえます。


確かに複数の出席者が口にされていた「公共性」を重んじるのであれば医療供給側を計画配置するという発想になるんでしょうけど,自由が制限されるのは医療受容側もまた同様であることもきちんと提示するべきでしょう。例えば奈良で医師配置計画が行われている事例がVTRで紹介されていましたが,「24時間365日受け入れる」というニーズを満たすためには集約化という名の「計画配置」が必要であり,結局は「偏在」を進行させなければならない訳です。この時点で「どこでも受診できる」という自由は制限されることになります。番組では医師側の抵抗で集約化が進まない,とコメントされていましたが,実際には地域住民の抵抗が相当影響することも忘れてはいけません。


「イギリスではどこの田舎でも家庭医がいて,必要があれば専門医に紹介してくれるから安心」みたいな発言をしていた方(肩書きは「患者」でした)もいらっしゃいましたが,家庭医であっても完全予約制でいつでも受診できるわけではないし,ましてや専門医の予約待ちがかなり長い,という制限が患者側にもあることを省略してしまっては正しい判断材料になりません。


医政局長は何度も「国民全体で議論して」という言葉を繰り返していました。確かに医療のあり方に関する議論は国民全体が参加するべきですが,それには示された選択肢のメリットだけでなくデメリットもきちんと明示しないと結論は特定の方向に誘導されていくことになるでしょう。まさに今回の番組がそのことを証明していると思います。