総合診療医の立ち位置


総合診療学→米留学→継承開業という経歴の著者が自らの立ち位置について語る一冊です。結論から言うと当方にとって予想以上(といっては失礼ですが)に興味深い内容でした。


プライマリ 地域へむかう医師のために

プライマリ 地域へむかう医師のために


「総合診療」にしても「家庭医療」にしても,もっといえば病院における「一般内科」にしても,定義は曖昧だし対象とする患者さんの範囲も明確ではなく,裏を返せば自分が診療する範囲を自分の責任で判断しなければならない,という点で難しさは確かにあります。一昔前と違い,できるだけのことをしたからといって結果が悪ければ社会的に許容されないこともある,という背景のもとではなおさらのことです。本書でもそのあたりの難しさが率直に語られていて,当方などはそういう不安が自分だけのものではないと知って少し安心しました。


現在の臨床研修制度は「深く狭く」より「浅く広く」を目指して作られた経緯がありますが,現実には臨床医としてのターニングポイントを迎える5年目以降に外部評価を受けるシステムがなく,目指すべきロールモデルも見えにくいという問題も本書では指摘されています。新臨床研修制度以前のシステムだと,専門医として研修する道筋はある程度出来上がっている*1のですが,その一方で,臨床医として裾野を広げようとしたときに同じような悩みを抱えるというのはあるかも知れません。


実際の話,全ての総合診療医が何でも診られるスーパードクターを目指すというのは当然無理があるわけで,

新規に何かを切り拓かなければいけない時期には,スーパードクターが必要でしょう。(中略)今は,「スーパードクターでなくてもハッピーに過ごせる人」が育っていかなければいけないと思います。現在は「普通のことを普通にやっているだけの人」がロールモデルになったほうがよい時代になっているのだと感じます。
ただ,その普通というのがやっぱりすごく難しいんです。
p74

というくだりは,継続可能性を考慮するという点で個人的にはとても納得できます。そもそも総合診療医に限らず,個人の限界を超える要求を満足させ続けるのは無理な筈なんですが,専門医が不足している状況を総合診療医で代替させて医療ニーズに応えようという昨今の流れは,まさにそうした無理を医師に押しつける結果になるのではないかと思います。



 

*1:もっとも現場から指導医がいなくなることで現在崩壊中ですが…。