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外国人介護士受け入れのコスト

介護


昨年からインドネシアからの介護士の受け入れが始まりましたが,この事業に関して興味深い特集記事がありました。


これでは“派遣切り”予備軍に 役所が貪る「外国人介護士・看護師受け入れ利権」 - 日経ビジネスオンライン

今日から就労を始めるインドネシア人介護士は、本来であれば300人に上るはずだった。それが3分の1程度にとどまった大きな原因は、厚労省にある。同省の定める条件があまりに厳しく、受け入れに関心はあっても二の足を踏む介護施設が続出したのだ。

介護士を受け入れる施設は、彼らへの賃金とは別に斡旋手数料や日本語研修期間への支払いで、1人につき60万円近くを負担しなければならない。受け入れは2人以上が原則で、小規模な施設にとってはバカにならない金額だ。

それを山分けするのが官僚機構である。まず、日本側で唯一の斡旋機関を務める「国際厚生事業団」(JICWELS)が、手数料などの名目で1人当たり約16万円を徴収する。JICWELSは厚労省傘下の財団法人で、歴代理事長を同省の事務次官経験者が務める天下り先だ。

厚労省は、インドネシア人介護士が就労を始めて3年後、「介護福祉士」の資格取得を義務づける。日本語で国家試験を受け、一発で合格しなければ、故郷に帰国しなければならない。

日本人であれば、介護福祉士の資格がなくても仕事を続けられる。看護師などの場合と違い、資格の有無によって仕事内容が変わることもない。そんな資格の取得が、外国人に限って強要されるのだ。

しかも試験は、日本人でも2人に1人が不合格になる難関だ。インドネシア人の現在の日本語レベル、さらには仕事の合間を縫っての受験勉強では、恐らく大半の介護士が試験に落ち、帰国を余儀なくされるのは間違いない。

施設としては、3年かけて仕事を教え、1人前に育てたところで人材を失うのだ。介護を受ける利用者にとっても、慣れ親しんだ相手と別れることになる。十億単位の税金をつぎ込んだ結果がこうだ。官僚機構の仕事が増えただけで、後は何も残らない。これが今の制度の実態なのである。

経済協定に基づく事業*1ということで多分に政治的な意味合いが強く,すぐに介護現場にとって実効のあるような人数を確保できなかったのは仕方ないのかも知れませんが,それにしてもここまでハードルを上げてしまっては受け入れる施設にもインドネシア人介護士にとってあまりにもメリットがなく,また将来国にとって意味のある事業として継続できるのか疑問に思います。


そういえば先日読んだこの本*2でも同じような指摘がされていました。

クルマは家電量販店で買え!―価格と生活の経済学

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このとき生じる大きな問題点のひとつは,選別をおこなうのに多額のコストがかかるという点です。インドネシアからの看護師・介護福祉士の受け入れだけでも,日本政府は毎年13億円を拠出するとされています(フィリピンからの受け入れもふくめると年19億円の予算とのことです)。1年で500人という予定で,実際には300人しか集まらなかったことを考えれば,信じられない金額の予算がついています。渡航費や日本語研修費のほとんどを日本政府が負担することになっていて,1人につき300万円以上のおカネを支払うためです。

さらに,受け入れ機関の負担も多額です。給料を支払うのはもちろん,最初に支度金を支払う必要があるうえに,試験に合格せず帰るときの旅費なども負担することになっています。結果として合格しなかったインドネシア人にとっても,時間や労力がムダになるという意味で,コストは高いと考えるべきでしょう。

こういった制度になってしまうのは,高いコストがかかるほど政府の予算がたくさんついて,官僚の権限も広がるといった事情があります。官僚の保身(権限強化)のために,ムダなコストが浪費されるような制度ができてしまうわけです。
p120-121

つまり,コストをかけること自体が悪いのではなく,必要以上に厳しい選別をおこなうことによりコストが大きくなってしまい,得られるメリットが見合わないことが問題なのでしょう。受け入れることの是非はともかく,受け入れると政府間で決めた以上,もう少しお互いのメリットになるような選別のやり方もあったようにも思えます。


こうした政策が利権拡大のために意図的になされているのかどうか当方には窺い知れませんし,官僚の権限をどんどん取り上げて「小さな政府」にすることは必ずしも国民のためにならないのでしょうけど,このような誰のメリットにもならないようなお金の使い方はやはり批判されるべきと考えます。


 

*1:厚生労働省:日・インドネシア経済連携協定に基づくインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて

*2:他にもいろいろな問題を扱っていて,個人的には学歴偏重によるコストの話が面白かったです。