医師の派遣とは何か


初期研修に関する文部科学省厚生労働省の合同検討会の出した結論を踏まえてさらに具体案を固めるための会合が行われています。とにかく再来年度の4月から逆算して今年のマッチングまでには決めなければいけないためか,議論のスピードも速いですね。


研修医の募集定員、医師の「派遣」実績で - CBニュース


厚労省側が示した試案によれば,病院の研修医募集定員は前年度の実績に加えて,その病院が医師を派遣しているかどうかの実績を考慮するとのことです。病院にしてみれば研修内容よりも本来関係がない「派遣」の実績が評価されるわけですから,「研修の質が高い病院に行きたい」という研修医の希望とはだいぶ違う方向に向かっているようにも思えます。


ところで議論の中で,そもそも医師の「派遣」とは何か,という問いが出てきました。

長尾卓夫委員(医療法人恵風会理事長)は医師の「派遣」について、「大学の医局に入っている医師がどこかに行って勤めるわけで、医局に属していることがあって派遣と呼ぶのか。一般の地域の病院でも、そこにいた人がどこかへ行ったら、それを派遣と呼ぶのか。それとも、ただの異動なのか」と質問。これに対し、事務局側は大学について、「それ以外にも該当するケースはあると思う。全体としてどのように取り扱うかは、ここでの議論を踏まえて整理したい」と答えた。

医局は本来法律に基づいて派遣を業として行っているわけではありません。医師が現在勤務している病院を「一身上の都合で」退職し,医局が「紹介」した病院に「自発的に」求職,採用されているという建前で,暗黙のうちに強制力を発揮して実質的に医師を配置していたわけです。それでも一般の病院のあいだを医師が自分の意志で転職するのと形式上は変わりはありませんから,「派遣」の定義は簡単にはできないでしょう。少なくとも「大学病院だったら派遣」と強弁するのは無理があるんじゃないかと思いますが…。


そういう非明文化された仕組みによってこれまで日本の医療がなんとか成り立ってきたのは事実ですが,社会情勢や医師の意識が変化していることを考えれば今後も維持し続けることは難しいと個人的には考えます。


大学病院や医局にしてみれば今のままのほうがいろいろと都合がいいのかもしれませんが,厚労省がその気になれば「派遣」の解釈次第では権限を奪うことだって出来るわけです。初期研修医の強制配置が実現してもそれだけでは当然医師不足は解決しませんから,次は後期研修医の配置をコントロールしようという話になるのは目に見えているし,最終的には勤務医の「偏在」にも手をつけようとすることだって考えられます。そのときは「派遣」の定義問題が大学病院や医局にとってある意味地雷にもなるんじゃないでしょうか。