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当直は時間外労働

医療と司法 医療崩壊


県立奈良病院の医師が時間外労働に対する賃金の支払いを求めた訴訟の地裁判決が昨日出ていました。救急の受け入れや緊急の対応を行っている当直は時間外労働であり割増賃金を支払うようにという判決とのことで,至極当然だと思います。


医師の当直勤務は「時間外労働」、割増賃金支払い命じる判決 - 読売新聞

同病院産婦人科には当時、医師5人が所属していた。平日の通常勤務以外に夜間(午後5時15分〜翌朝8時30分)、休日(午前8時30分〜午後5時15分)の当直があり、いずれも1人で担当。労基法上では、待ち時間などが中心の当直は、通常勤務と区別され、割増賃金の対象外とされる。そのため、県は1回2万円の手当だけ支給していた。

判決で、坂倉裁判長は、勤務実態について「原告らの当直は、約4分の1の時間が、外来救急患者の処置や緊急手術などの通常業務」と認定。待ち時間が中心とは認められないとして、労基法の請求権の時効(2年)にかからない04年10月以降の計248回分を割増賃金の対象とした。

問題は,この至極当然の支払いがこれまで無視されていたこと,そして病院にとってはこの支払いを無視することが経営の前提になっていたことでしょう。この判決の行方に関しては,全国の病院とくに国公立病院が注視しているのではないかと推測します。おそらく同じように支払いを求められたら応じなければならないところが多いでしょうし,今後の当直料についても考え直さなければならなくなる筈ですから。


これまで医師の「逃散」あるいは「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれる行動は,医師が与えられた労働環境では不可能な業務を要求されたことが大きな要因となっていました。医師の労働環境に対する法令遵守が厳しく求められるようになるとすれば,病院が現状の医療情勢では不可能な経営を要求されることになるわけで,次は病院そのものが「逃散」する番なのかもしれません。いずれにしても,問題なのは法令遵守そのものではなく,法令遵守によって立ちゆかなくなるような制度なんでしょうけど。

原告らは、緊急時に備えて自宅待機する「宅直制度」も割増賃金の対象になると主張したが、坂倉裁判長は、宅直については、医師らの自主的な取り決めとして、割増賃金の対象と認めず、請求を退けた。

今回の判決では「宅直制度」は医師が勝手にやったことなので時間外労働に当たらないとのことです。当方の経験では実質的に病院からの要請によることがほとんどでしたが,あったとしても立証するには証拠が不十分だったのかもしれません。個人的には,今後も医師が「自主的な取り決め」によって無償の「宅直」を続けるのは自由ですが,それを自慢したり他の医師に強制するのは止めた方がいいように思います。


関連エントリ

■毎日新聞社説について:補足 2006-06-16

確実に地域に配置したいのであれば要求される労働条件を提示し,それに応じた報酬を用意する必要がある。そして口約束ではなくきちんと雇用契約を結ぶ事である。常識的な企業だったら当然のことだが,医局にはこれまで契約という概念がなかった(そもそも医局という団体そのものが法的には何の根拠もない,同好会や互助会の類である)。だからこそ,明らかに労働基準法に違反した奴隷労働を医師に強制する事が出来たとも言える(建前上雇用している病院側は,医師が勝手に長時間働いたという立場である)。

だが現状の労働条件と報酬をそのまま提示して,雇用契約を結ぶ医師はまずいない。厚生労働省の言うような医師の過剰(医師免許は保有していても臨床医療に従事していない医師も含めた統計を基にしている)はなく,現実には医師の雇用は需要過剰なのである。

■残業代請求訴訟 2007-09-07

医師の時間外勤務が把握されていないことによる問題としては,勤務に見合った報酬が受け取れないことによる労働意欲が低下は勿論,労働者である医師自身の健康にも影響してきます。今年2月の道内の小児科医師の過労死でもその点が問題視されていたと思います。
普通の企業でも残業代不払いや過労死は問題であり医師だけが特別ではない,という意見も有るかと思います。ただ医師にかかる精神的肉体的負担のために本来の医療行為に影響が出ることが重要で,さらに言えば,現場の過重労働による医師のドロップアウトにより医師不足が悪循環に陥っていて,いずれも医療事故とは切り離せない問題の筈です。患者さんや患者の立場になる可能性のある一般の方が,医師の過重労働が結局はご自分の不利益になることを認識していただけているならいいのですが(多くの方はそうだと思いますが),なかには

医師不足は確かに問題だが、医療事故の被害とは別だ。医療側はまず、事故の真相を究明してほしい

という認識の方もいらっしゃるようなので心配です。