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無届け老人ホームは指導だけで改善しない

医療政策 介護


今年3月に群馬県の老人ホームで出火により多くの入居者が亡くなった悲惨なニュースはまだ耳に新しいところです。都道府県に届出を出していない「無届け老人ホーム」のなかに入居者の衛生や安全に問題がある施設があることが大きく取り上げられ,それを受けて厚労省都道府県に指導を徹底するよう指導を行ったとのことです。


有料老人ホームに生活改善指導 厚労省、無届けの80施設に - 47news

厚労省は、無届け施設に届け出を促し、従わない場合は罰金を検討するよう、同日付で都道府県に通知。届け出状況については、10月末時点で再び実態を調査する予定。


高齢者を食い物にする悪質業者を厳しく取り締まって一件落着,ということなら何よりですが,あいにくそんな単純な話ではありません。そのような住居環境の劣悪な施設でも入居せざるを得ないほど介護施設が圧倒的に不足しているのが現実であり,それを誘導している社会保障政策があるわけです。群馬県老人施設火災事故の背景にあるもの - 学習院大学教授・鈴木亘のブログに優れた解説があるので引用させていただきます。


まず無届けの施設の背景については,

介護保険開始直後から、グループホームや、有料老人ホームなどの「擬似施設」と呼ばれるものが、3施設の代わりに急速に利用を拡大し、待機老人の受け皿として機能してきた。

しかしながら、2005年の介護保険法改正で、各自治体が「総量規制」として、こうした擬似施設の建設を拒否する権限を有することになった。以降、介護保険料上昇を少しでも抑えたい各自治体は、競って総量規制に走り、現在は事実上、こうした擬似施設の建設はストップしている状況である。この傾向は、特に、東京都などの都市部で著しい。

つまり都道府県に老人ホームの建設を抑制させるインセンティブを与えたわけです。一方施設側から見た場合,

有料老人ホームの登録をしなくても、実質的な罰則がないために、事実上、任意の制度となっている。また、有料老人ホームの登録をした場合には、自治体の査察指導が入り、防火設備や様々な設備、人員配置などに指導が行われ、施設側の追加負担費用が非常に高くなることから、施設側に登録のメリットは全く存在しない。

ということで,届出を出すのとは逆のインセンティブしかないことになります。この状況ではいくら都道府県に指導を厳しくしろと通知を出したところで事態は良くなりませんし,もし罰則を強化するとなれば施設は撤退して入居者が行き場を失うことになります。


社会のコンセンサスとしてこうした劣悪な環境を改善するべきだというのであれば,とりあえずは罰則だけでなく施設の環境を良くする方向に作用するインセンティブを用意することが必要でしょうし,もう少し大局的に考えれば,大量の介護難民が発生している根本的原因である社会保障政策を見直すべきではないかと思います。