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時間外勤務の当直料は?


いつもはあまり真剣に読まない日本医師会雑誌ですが,今月号は「世界標準にはるかに及ばないわが国の予防接種体制」という特集に釣られて目を通してみました。特集もかなり勉強になりましたが,時間外勤務に関する江原朗先生の投稿論文(PDF:要会員ID)もなかなか興味深いものでした。以下,一部を引用しながらご紹介させていただきます。

厚生労働省労働基準局長通達「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」(基発第0319007号,平成14年3月19日)によれば,宿日直勤務を「病室の定期巡回,少数の要注意患者の定時検脈など,軽度又は短時間の業務のみ」としている。したがって,休日・夜間の救急外来を開設している病院においては,日給の1/3以上とした宿日直手当(労働省労働基準局長通達,基発第90号,昭和33年2月13日)ではなく,時間外・休日・深夜の割増賃金を支払う必要がある。


休日・夜間の救急診療を宿日直ではなく時間外勤務とした場合,当直料はいくらになるのか - 日医雑誌 第138巻第4号 p723-725

この基本をまず抑えた上で,本来の宿日直ではなく,時間外勤務としたときの当直料を試算しています。

試算の根拠としては,

  • 平成19年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)にある医師(男女計,平均年齢40歳)の所定内労働時間数(164時間)と所定内給与額(762.7千円)より時給4,650円
  • 労働基準法第37条第1項により平日時間外賃金は2.5割増
  • 同じく平日深夜賃金は5割増
  • 同じく休日賃金は3.5割増
  • 同じく休日深夜賃金は6割増

その結果,深夜を挟んだ16時間の当直の賃金は次のように計算されます。

  • 平日
    • 4650円 ×( 9時間×1.25 + 7時間×1.5 ) = 101,137円
  • 休日
    • 4650円 ×( 9時間×1.35 + 7時間×1.6 ) = 108,577円

ちなみに宿日直手当として計算すると,

    • 4650円× 8時間× 1/3 = 12,400円

となり,時間外勤務の解釈によっては本来の賃金のおよそ1/8しか支払われていないケースが想定されることになります。さらに,労働基準局が「宿日直に関して集団指導の対象となる医療機関」に関する平成14年の通達*1を引用し,これに反する診療は是正勧告を受ける可能性があると指摘されています。

1.宿直又は日直勤務の回数が許可基準(宿直週 1回,日直月1回)を上回るもの.
2.1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が 8日以上のもの.ただし,次のものは除外.
a.1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が 8日ないし 10日である場合において,救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに 3時間以内のもの.
b.1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が 11日ないし 15日である場合において,救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに 2時間以内のもの.
c.1か月における宿日直勤務中に救急患者に医療行為を行った日数が 16日以上である場合において,救急患者の対応に要した時間が最も多い日について勤務医及び看護師ともに 1時間以内のもの.
3.宿日直勤務中の通常の労働に対し宿日直手当のほか必要な賃金を支払っていないもの.


厚生労働省労働基準局監督課長通達「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化の当面の対応について」(基監発第 1128001号,平成14年11月28日)


このあたりはここ最近の医療ブログ界隈で話題になったので比較的知られるようになった事実ではありますが,日本医師会雑誌を読んでいるような層だとご存じない先生もまだまだいらっしゃるかも知れません。このように具体的な試算をすることで,時間外勤務を強引に宿日直と解釈することによってどれだけ賃金が搾取(と呼んでいいと思います)されていることが明確になるのはもちろんですが,何よりこの試算がweb上ではなく医師会雑誌で紹介されることに大きな意味があるのでしょう。上記の通達に照らせば,勤務医であれ管理者であれ,実態としてどれだけの時間外勤務が宿日直として処理されているのか,医師自身が一番よく分かるわけですから。


 

*1:この通達に関してはYosyan先生が以前に詳しく取り上げています。→http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20080129