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医療改革と財源選択

医療政策 読書


先頃二木立先生の新刊が出たので読んでみました。自分の理解を整理する意味でまとめてみます。

医療改革と財源選択

医療改革と財源選択

取り上げているトピックはタイトルにある公的医療費増加の財源論の他,世界同時不況が医療政策に与える影響,小泉政権下で行われた医療改革とそれ以降の医療政策,回復期リハビリテーション病棟に導入された成功報酬の批判,医師数増加による需要誘発論への検討,など多岐にわたりそれぞれたいへん勉強になりました。


1980年代以降一貫して診療報酬の凍結と医療機関への規制による医療費抑制が行われていたのに加え,小泉政権の行った医療改革は,健康保険自己負担率の引き上げ,診療報酬の引き下げ,医療制度改革関連法(生活習慣病対策+平均在院日数短縮)により伝統的改革手法をさらに強化したものでした。さらに財界・経済官庁の主張する新自由主義的改革のシナリオに沿って混合診療解禁などが取り沙汰されましたが,厚労省の抵抗と医療団体の反対があり結局実現はせず,新自由主義勢力は小泉政権以後は影響力を失ったとのことです(このあたりは前著で詳しく述べられています)。


医療費抑制政策に関しても部分的な見直しが始まり,福田政権下で立ち上げられた社会保障国民会議では,社会保障の機能の評価を反映したシミュレーションが行われ,医療の効率化と改革を行っても医療費総額の抑制はできない(かえって増加する)ことを認めた点を評価される一方,シミュレーションにおける医療費水準は依然低いこと,医療費効率化のシナリオが非現実的で一人歩きするおそれがあること,公費負担増加の財源は消費税が前提であることに懸念を示されています。


公的医療費増加の財源としては,以前からと同様に社会保険料の引き上げが財源調達力と政治的実現可能性より現実的であるという主張です。所得税の累進制の強化,企業課税,相続税の強化が可能であれば理想だが現実には困難であり,公共事業費,軍事費は財政規模からいって主財源にはなり得ないとのことです。また特別会計などの「埋蔵金」は取り崩す効果がわずかと言われていること,無駄な積立金があれば「ストックはストックへ」の原則から累積債務の返済に回すべきであるとされています。社会保障国民会議や多くのメディアが主張しているような消費税財源論は,政治的情勢を考慮すると,消費税引き上げの大半は年金や財政赤字縮減の財源として用いられ,医療費に回る余地はほとんどないことから否定的です。


ただし社会保険料の引き上げに際してはその逆進性を緩和するために,引き上げは被用者保険に限定し,国保後期高齢者には国保負担を増額すること,組合管掌健康保険(大企業の従業員が加入)については使用者の保険料負担を引き上げること,保険料の上限を引き上げることが必要としています。ただしそれらによる増収効果は限定的であり,社会保険料の平均を引き上げることが不可欠とのことです。


今後衆議院選挙を控え,社会保障政策とその財源に関する議論も盛んになると思われますが,専門家によるこうした客観的な分析も念頭に置いておくのが大事なことではないかと思います。各政党とも医療費を引き上げるという点については同様ですが,具体的な方針が財源の規模と実現可能性の両面において妥当であるかという視点で検証する必要があるのでしょう。