医師優遇税制と言っても


事業税優遇廃止案が浮上=開業医の診療報酬−来年度税制改正、政府・与党 - 時事通信

2010年度税制改正をめぐり、開業医の報酬に対する個人事業税(地方税)の非課税措置を廃止する案が政府・与党内に浮上してきた。政府税制調査会(会長・藤井裕久財務相)は租税特別措置などの優遇税制をゼロベースで見直す方針を掲げており、年末の税制改正の焦点の一つとなりそうだ。ただ、同措置の存続を求める日本医師会(日医)などの反発は必至で、来年の参院選を控え与党内から異論が噴出することも予想される。
治療の対価として医療保険から医療機関などに支払われる診療報酬は、税制面で各種の優遇を受けており、個人事業主の所得の3〜5%を課税する事業税の非課税措置もその一つ。制度創設以来、開業医の事業所得に当たる診療報酬は非課税扱いが続き、50年以上、手付かずの状態となっている。
同措置については有識者らによる旧政府税調が課税の公平性の観点から速やかな撤廃を求めるなど、自民、公明両党による前政権下でも見直しを求める声が強かったが、日医を有力な支持基盤としていた自民党内の反発で見送られてきた。(2009/10/19-19:17)


いわゆる「医師優遇税制」と呼ばれるのは「所得税における租税特別措置法26条の適用」と「社会保険収入に対する個人事業税の免除」の2点だと思っていました。優遇という点では前者が槍玉に挙がることが多いですが,今回は後者に手をつけるという話のようで,上の記事を読むと両者が微妙に混ざっていてどうもよく分からなくなっています。よく分からないのは当方が税のしくみに疎いせいでもあり,いい機会ですから今度担当税理士に詳しく教えてもらおうと思います。一応当方の知識を整理する意味でエントリをあげてみました。誤りがあればいつでも訂正する準備はあります。


租税特別措置法26条の適用」について,これを利用して実態と乖離した必要経費を算出することに関しては批判はあるところですが,実際のところ恩恵を受けている開業医が多数というわけでもないようです。当院も零細開業医ですが,単純に青色申告した方がむしろ有利なのでそうしています。これを廃止することの意味は天漢日乗さんのところでも詳しく考察されています。ただし,これは所得税が対象であり,基本的には「事業税優遇廃止」とは別の話だと思います(多分)。


記事の見出しにある「社会保険収入に対する個人事業税の免除」については,他業種の個人事業主の皆さんからすれば納得できない気持ちも理解できなくもないですが,保険収入というのは公定価格であって,しかももともと個人事業税が免除されることを見込んだ水準に設定されている筈で,さらにここ数年はかなり抑制されている状況です。診療所経営の現状については,丸投げで誠に申し訳ありませんがYosyan先生の「医療経済実態調査を分析」に詳しいです。


ですから個人的には,開業医の収入を削減することが目的なのではなくて,本当に「公平性の観点」から個人事業税の非課税措置を廃止するというのであれば,その分診療報酬を増額するのが筋かと思いますがどうでしょうか。もっともそれだと社会保険財源が税金に移行するだけなんですが…。付け加えれば,社会保険収入が個人事業税から免除されるのは「医業,歯科医業,薬剤師業,助産師業,あんま,マッサージ指圧,はり,きゅう,柔道整体,その他の医業に類する事業を行う者」ということになっていますので,開業医だけを取り上げるのは「公平性の観点」にそぐわないかと思います。


まあ邪推すれば,「公平性の観点」なんていう建前よりも開業医に打撃を加えるのが目的なんでしょうし,こういう報道が流れること自体,日本医師会にとっては「早く態度を決めろ」と恫喝されているに等しいのかもしれないですね。実際どうするのかは知る由もありませんが。