ドラマ「坂の上の雲」を見る


日露戦争を描いた司馬遼太郎原作の小説がNHKでドラマ化され,本日第一部が終了。むやみやたらと豪華な俳優陣と金のかかっていそうなセットからは制作側の力の入りようが伝わってきてさすがに見応えはありました。ただ,原作にはない独自のプロットが多く人物像には少なからず違和感。また,戦争に至るまでには当時日本が置かれた国際的状況と開化期の国内的事情が背景にある以上,太平洋戦争を経た現代の価値観で評価すべきでない,というのは原作者自身が強調していたところですが,どうもその点でところどころ危うさを感じる脚本だったように個人的には思います。一応第二部以降に期待。次は1年後ですが…。


そういえば従軍記者が軍当局に事実の歪曲を強要される場面がありましたが,これも完全にドラマオリジナルです。もっとも原作ではこういう記述はありますが。

日本においては新聞は必ずしも叡智と良心を代表しない。むしろ流行を代表するものであり,新聞は満州における戦勝を野放図に報道し続けて国民を煽っているうちに,煽られた国民から逆に煽られるはめになり,日本が無敵であるという悲惨な錯覚をいだくようになった。日本をめぐる国際環境や日本の国力などについて論ずることがまれにあっても,いちじるしく内省力を欠く論調になっていた。

文庫版 坂の上の雲(七) p230 

このあたりちょっと改変すれば今でも通用しそうですね。不適切な報道がされるのは政治的圧力だけでなくみずから冷静な姿勢を放棄することも一因なわけで,その意味では,意図的なのかどうかはともかく,原作者の意図を曲げているような気がしました。