自治体病院の「赤字」


地域医療 ~再生への処方箋~

地域医療 ~再生への処方箋~

元自治体職員であり,現在は自治体病院のマネジメントを研究されている伊関先生の最新刊。これまで関わってきた銚子市奈良県沖縄県夕張市丹波市などの事例はそのまま地域医療崩壊の歴史でもあります。話題は自治体病院にほぼ限定されてはいますが,それだけに公務員から見た公務員の行動規範や限界が詳細に検討されていて,病院経営に限らず,官僚論としても興味深い内容となっています。

自治体病院経営が問題視される背景として,公務員ならではの横並び,縦割り,前例主義による非効率性が挙げられることが多いですが,一方では民間病院では診療報酬体系上「不採算」となる患者さんを引き受けざるを得ないことも経営を圧迫しているわけで,どこまでがやむを得ない「赤字」でどこまでが改善の余地がある「赤字」なのか,というあたりを一緒にして経営改善を議論するのも現実にそぐわないように思えます。そういう面でも本書で指摘された具体的な問題点とその改善策は,とても勉強になります。

個人的に特筆すべきは第7章の「自治体病院の『赤字』について考える」です。そもそも「赤字」といえば素人的には収入より支出が多い状態ぐらいに思ってしまいますが,固定資産の減価償却や借入金の処理などが加わるとなかなか複雑になります。このあたり,当方も経営者の端くれにも関わらず半分も理解せずに書いてますので間違っていたらご指摘ください。

一例を挙げると,確かに病院の現預金が不足すれば運営に重大な支障が生じる一方で,「累積赤字」としてよく槍玉に上がる累積欠損金については,一定の現預金が確保されていれば経営上はそれほど支障はありません。そのあたりの理解が不十分で必要以上に「赤字」が問題視されると,現場の医療従事者に収益増加の圧力が加わったり,極端な場合経営そのものから手を引こうとしたり,ということになります。

少なくとも,病院経営を考える立場のひとは問題をできるだけ正確に理解する必要があるわけで,そしてそれを考えるべきなのは病院や行政だけでなく,伊関先生が以前から主張されているように,住民もその当事者であり,一般向け書籍で難解な会計の技術論にあえて一章を割いたのは,おそらくその理解を助けるためと推察します。