後期高齢者医療制度を廃止したあとは2


猛暑のため脳の活動が低下気味で140字以上の文章を書くのが困難となり,しばらくこちらを更新できませんでした。なんとか涼しい時間帯を見つけてせめて週に一回くらいはエントリを書きたいと思っています。


さて,後期高齢者医療制度廃止という公約に沿って昨年秋から「高齢者医療制度改革会議」において廃止後の新しい制度について議論され,先日それをふまえた中間とりまとめ案が発表されました。75歳以上の方が国保と社保に移るということなら単純に以前の制度に戻っただけのような気がしますが,どうやら同じ国保でも一定年齢以上は都道府県,それ以下は従来通り市町村が財政を管理するという話のようで,つまり保険証は同じでも財布は別ですから,相変わらず区分は解消されていません。後期高齢者制度廃止という建前を守るための苦肉の策ということなんでしょうか。

社会保障というのは病気や障害のような個人で負うには大きすぎるリスクを社会全体でカバーする仕組みであり,そのためには財源をお金を出せるひとから集めた上で,それを必要とするひとに給付するという機能があり,それを国が運営していると理解しています。完全に平等化することは現実的ではないし,どこまで平等化するかという合意はそれぞれの社会によって異なるのでしょうけど,少なくとも高齢者の負担は高齢者自身が負うべき,という理念とは方向性が異なるはずです。

75歳以上で区別することは,医療の給付を必要性を考慮せずに一律で制限しようとする点で問題がある(これは以前のエントリでも取り上げました)のに加えて,負担の面でも累進性が低く,上記の社会保障による分配の仕組みが不十分だと考えられます。

理想をいえば,加入者の背景が異なる国保と社保の区別をなくして広く負担するほうが制度がより安定するのでしょうけど,それには自営業者と被雇用者で異なる所得の捕捉方法が障壁となり,次善の策として双方のあいだで仕送りをしてしのいでいるわけです。今回の議論の中では一歩進んで,社会保障番号を整備して所得をきちんと捕捉したうえで,それに応じて国保と社保のあいだで財源を調節する仕組みを作り,最終的には一つの制度にまとめるという提案はされていました。現状の仕送りだと外部からよく判らない政治的思惑で決まってしまうこともあり,現状をふまえた妥協案としては,個人的にはそれなりに納得できる案と思います。

ただ議事録をざっと読む限り,それぞれの利益代表がそれぞれ自分たちの負担を減らす話ばかりしていて,結局は公費をもっと入れようという流れになっています。もちろん保険制度内で負担の配分を是正してもそれで賄えるわけではなく,保険料にしても公費にしても広く負担を増やす必要はあるのでしょう。ただこのまま現状の枠組みを維持している限り,リスクを全体でカバーするという本来の社会保障の役割から離れていくような気がします。まあこのあたりは当方の理解が足りない点も多々あるとは思いますので,事実認識の誤りや考察の不足についてご指摘いただけると幸いです。