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混合診療解禁を巡る議論

私見 医療政策


混合診療禁止の法的根拠について争われていた裁判は,最終的に最高裁で「法的根拠あり」の判断が下されたようです。

健康保険法に混合診療を禁じる規定はないが、国は法解釈で禁止してきた。その一方で、1984年の同法改正以降、特定の高度先進医療に限って例外的に混合診療を認めている。


第三小法廷は、禁止が「法律から直ちに導かれるとは言えない」と指摘しつつ、法改正の経緯などを踏まえて「医療の安全性・有効性の確保や、財源面での制約から、保険が給付される範囲を合理的に制限するのはやむを得ない」と述べ、国の解釈は妥当と結論づけた。

混合診療禁止は「適法」 最高裁が初判断 - asahi.com

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4年前の東京地裁では「法的根拠なし」との判断でした。

原告側としては,保険外診療を保険診療と同時に受けられないことで実質的に保険外診療が制限されるのは患者にとって希望する治療が制限され,不利益であるということになるのでしょう。

この判決は、保険外併用療養費制度があるから、今の制度で混合診療が十分できるのではないか、ということを根拠にした政策的判決です。患者からすると、医療政策の実態を全く知らない判断だと言わざるを得ません。わたしは全面解禁を望んでいません。病院と患者とのインフォームドコンセントが十分なされた上で、規律ある原則をもった解禁がなされるべきだと考えています。

混合診療訴訟 記者会見の主なやりとり - 医療介護CBニュース

療養費制度があって厚労省の裁量下で一種の混合診療が認められていることは踏まえたうえで,それでは不十分であるとの主張です。ここでいう「政策的判決」というのは患者の利益より厚労省側の主張が優先されたことを批判しているように思われます。確かに,公的機関が運営していることで迅速性に乏しかったり,財政的理由により高額な医療に制限がかかりやすいなど,患者側にとって(そして医療機関にとっても)不自由な制度である面は否めません。

「全面解禁を望んでいません」とのことですが,「病院と患者とのインフォームドコンセントが十分なされた上で、規律ある原則をもった解禁がなされるべき」が混合診療の裁量を患者の判断に委ねるという意味であれば,おそらく保険医療機関での保険外診療は拡大すると予想されます。医療機関としても保険診療では採算の取れないような医療は保険外で提供するという流れになるでしょうし,高度な治療を行う医師もそのようなところに集まってくると思われます。そうすれば,現状よりは「患者の望む治療」を受けられるようにはなるでしょう。ただしそれに見合う高額な医療費を支払える限りですが。

国民皆保険制度は,健康のリスクを国民全体で広く負担することで医療費を低く抑えていて,その代償として患者側が受けたい医療(あるいは医療側が提供したい医療)に制限をかけている,と理解しています。そうした制限に対して不満が生じるのは当然ですし,今回の判決でも補足意見ののなかでまさにその点が指摘されているわけです。そのために現状の制度を実質的に変更するのであれば,それは健康のリスクを個人が負うという方向に舵を切ることを意味します。

ちなみに日経新聞東京地裁判決時より一貫して混合診療の解禁を主張しています。今回の判決を受けた社説でもブレはありません。

治療の選択肢は広い方が望ましい。高度な専門医療を手がける一部の大学病院の院長の間では、混合診療の解禁を求める声が強い。混合診療の禁止が技術革新の足かせになっている面も見逃せない。


もちろん、粗悪で有効性や安全性が定かでない薬などを提供することがあってはならない。患者に有害な行為をする医師を厳しく取り締まる仕組みづくりこそが、厚労省の役割である。


昨年、民主党政権は新成長戦略混合診療を原則解禁する旨の表現を盛り込んだ。それを実現させるのは行政の長であり、与党の党首である首相の責務であろう。

混合診療の解禁は立法府に委ねられた:日本経済新聞

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選択肢を個人に委ねるのであれば,一方で健康のリスクを個人が負うことになるという視点に欠けた主張のように思われます。もちろん価値判断としてはそのような社会もあるのでしょうけど,現状の制度に替えるにはデメリットが大きすぎるように思えます。個人的には,現状の制度の枠内で,患者さんへの不利益ができるだけ小さくなるように運用を改善するよう努力することが望ましいと考えます。