「医療否定」は患者にとって幸せか
- 作者: 村田幸生
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2012/12/03
- メディア: 新書
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「神様のカルテ」などの小説・ドラマ・映画を題材にしながら,なぜエビデンスに反した「医療常識」が蔓延するのか,なぜ病院での最期は満足度が低いのか,説明と同意における食い違い,抗がん剤を使う意味といった医療者でもまだ整理がつかない話を整理がつかないなりに一般の読者に伝えようとする姿勢は『「スーパー名医」が医療を壊す』と同様です。
最終章では石飛氏の『「平穏死」のすすめ』を取りあげます。「高齢者や終末期医療の意味づけ」という壁にぶつかった医療者が「この人に治療を続けることに意味があるんだろうか」と自問する心情には共感しつつも,
老人ホームで,経管チューブの入った寝たきり高齢者を見て,
「お年寄りになんてことをするんだ!」
と思うのは,がん告知で
「お年寄りに何てことを言うんだ!」
と思うのと同じ。
「だって,もうこの人たちの人生に,大事な時間なんてないんでしょ」
と勝手に思い込んでいるだけではないだろうか?
そうだとすれば,無茶苦茶失礼な話だ。第6章 高齢者の胃瘻は本当に意味がないのか? P206-207
と指摘します。最終的に『「平穏死」のすすめ』に対する評価は
それを老人医療の一般論として納得させるには,医学的にも,倫理的にも,人生論としても,はなはだ不十分ではないか
第6章 高齢者の胃瘻は本当に意味がないのか? P210
と結論づけています。
かなり厳しい評価ですが,当方としては一連の「尊厳死」「平穏死」「自然死」に関する書籍や記事を読んだり講演を聞いたりして感じてきた違和感というのがやはりそのあたりにあったということもあり,どちらかというと…というよりかなり著者の見解に共感を覚えます。
本人にとっても家族にとっても後悔の少ない最期を迎えるために,「尊厳死」「平穏死」「自然死」という考え方をうまく使うというならともかく,昨今のブームはむしろそれが目的化してしまっている印象があります。「尊厳死」「平穏死」「自然死」を提唱した方々がもともとそうした意図があったとは限らないのでしょうけど,やはりこのブームに対抗する言説がもう少し取りあげられてもいいように思います。