医療事故調再び


先日より厚労省の検討部会で議論していた医療事故調の案が一応まとまり,法案として提出されることになりそうです。

 18日に開催された検討部会では、診療行為に関連した死亡事例はまず、医療機関が院内で原因究明し、遺族などがその調査結果に納得できない場合、院外に再調査を申請できる仕組みにすることを確認した。ただ、遺族などが医療機関に不信感を持ち、院内での調査を望まないケースでは直接、院外に調査を依頼できる仕組みも選択肢として残した。医療機関は、再発防止につなげるために、調査結果を第三者機関に届け出ることになる。

医療事故調関連法案、臨時国会に提出へ - キャリアブレイン

議論の流れとしては,第三者機関主体の厚労省大綱案に対して医療側の大反対があり,院内調査優先の民主党案が提案されたあとに民主党政権となりしばらく沙汰止みとなっていました(このあいだに議論が進まなかったのが悔やまれます)。その後民主党政権の末期になって再び厚労省内で議論が再開,今回の院内調査と第三者機関の二段構えという方針に至ります。

過去の記事を追うと,第三者機関の立ち位置については最後の最後まで揉めたようです。院内調査が優先するにせよ調査結果をすべて第三者機関に届けるという最終的な着地点は,妥協のようでいて実質的には厚労省大綱案を受け継いだ方針のように思えますが如何でしょうか。

検討部会に参加されていた中澤堅次先生は第三者機関に対して否定的な見解を表明されています。

第三者機関に寄せられる期待は、隠蔽・改竄、故意の犯罪などの摘発もありますが、最も大きな期待は、死に関連した医療行為の是非を専門家自身が判定する難しい作業を行うことです。事故の被害者は、悪い結果に医療の失敗を疑い、すべての事例に専門第三者による明確な判断を求めます。また医療側には事故に関するいわれのない訴追や、警察捜査を回避するため、同じ専門第三者にお墨付きを求めるという期待があります。
このように第三者機関設立に寄せる思いは、立場により異なり、求めるものも正反対ということになりますが、第三者に難しい専門的な結論を下してもらうところだけが一致し、大きな流れになってしまっています。しかし、死と医療との現実は変わるわけは無く、双方に不信感が大きくなればなるほど、第三者は深刻で分かりにくい判別を無理に下さなければならないジレンマを抱えることになります。

厚生労働省医療事故調査検討部会における二つの流れ - MRIC by 医療ガバナンス学会

多面的な「真実」に判断を下すことの困難さに加えて,そもそも現実に発生する事案に対して適正に審判を行うだけの人員と時間が圧倒的に不足するという実務的な問題も容易に想定されるわけで,患者側にとっても医療側にとっても期待に応えるものにはならないのでは,というのは個人的にはもっともな懸念だと思います。

そう考えると,本来の目的である再発の防止に寄与しないのでは,という大綱案で指摘された問題は本質的に変わっていません。なおかつ調査結果を責任追及に用いることが制限されないとすれば,当事者のあいだで事実を共有し現実と折り合いをつける過程が妨害され,紛争が助長される可能性は大きくなります。このままだと最良でも無用の長物,悪ければ医療現場の崩壊を後押しする法案になるような気がします。まあ法案提出までにまだ一波乱あるのかもしれませんが,それにしてもこんなにあっさり方針が決まってしまうとは,以前の厚労省大綱案に対するあの騒動は一体何だったんだろう…というのが実感です。