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医療事故調再び2

医療と司法

厚労省がかねてから推進していた医療事故調法案が今回提出の運びとなるようです。

医療事故の原因究明と再発防止に役立てるため、厚生労働省が法制化を目指す第三者機関「医療版事故調査委員会」について、自民党社会保障制度特命委員会・厚生労働部会合同会議は28日、2年以内に制度を見直すことなどを条件に大筋で了承した。厚労省は今国会に制度創設を盛り込んだ医療法改正案を提出する。

 法案では診療行為に関して患者が予期せず死亡した場合、医療機関は民間の第三者機関への届け出と院内調査が義務付けられる。調査結果に納得できない遺族は第三者機関に再調査を求めることができ、調査結果は警察や行政に通知しない。

 ただ、医師が患者を「異状死」と認めたケースは従来通り医師法に基づき警察に届け出る義務があり、一部の議員らが「警察が介入する恐れがある」などと反発していた。法案ではこうした意見も踏まえ、2年以内に医師法との関係性についても結論を出すとの文言が盛り込まれる見通し。

医療版事故調を設置へ 自民が大筋了承:日本経済新聞

法案に関しては昨年4月にも取り上げていますが*1,特に指摘された問題点が改善されたわけではありません。今回提出にあたり自民党内の医系議員から「事故調設置とセットになる医師の過失責任を免除する仕組みの議論が不十分」との異論が出ていて*2,提出が見送られるかもという報道*3もありましたが,結局は「2年以内の見直し」で妥協したということのようです。

医療事故を業務上過失致死という概念で扱うことの弊害と事故調によりそれが改善できないことも当初から指摘されていますが,こればかりは厚労省の管轄でいくらルール変更しても解消するものではありません。大野病院裁判があって以降医療事故の刑事告訴はなりを潜めましたが,それもあくまで検察側が消極姿勢を保っているというだけで,山本病院事件*4級の「誰が見ても医師に問題がある事例」が再度起きて世論の風向きが変わればどうなるか分かりません。いずれそうなる前に医療事故における刑法の扱いについて厚労省の枠を超えて議論しなければならなかった筈なのですが,残念ながら民主党政権時代をはさんだこの数年にそうした形跡はありません。決して現実化してほしくはないのですが,通常の医療行為が刑事事件化されるという事態が再び起きることは想定しておいてもいいと思います。

患者側と医療側の紛争解決手段という側面から期待する向きもありますが,専門領域で生じた事故を裁断するのは決して容易ではなく,さらに情報公開と再発予防はトレードオフ*5である以上,その結論の取り扱いも慎重を要します。具体的には調査結果の民事訴訟の証拠への採用を制限するという運用が考えられますが,法案審議にあたってそのような議論にはなっていません。

他にもいろいろ論点はありますが当面の現実問題として,第三者機関が鳴り物入りで設立されたとしても案件を審理するための専門家がどこからか湧いて出てくるわけではありませんから,処理能力が要求に応えられないことは容易に想像できます。そうなったときの厚労省の対応は,これまでのやり方から判断する限り,処理能力を上げるのではなく「需要」を抑制する方向にむかうのではないかと密かに考えているのですが如何でしょうか。