専門用語は難しい


専門家と非専門家のあいだで使う言葉の定義付けが異なっていて,そのせいで意思の疎通がうまくいかないことは,どんな分野にもあり得ることです。日常会話で出てこないような難解な用語であればむしろ専門用語であることはすぐ分かるし,調べることも出来るのですが,日常生活で普通に使う言葉が専門家にとっては違う意味を持つ場合だと,お互いにそのことに気が付かずに議論が噛み合わないこともありそうで,むしろ厄介かもしれません。


医療用語の中にも誤解を招きやすい例として「消毒・滅菌されている」を意味する「清潔」という言葉がありますが,一般の方に対して医療者が説明する場合,初めからそういう紛らわしい言葉を使わずに初めから「消毒・滅菌されている」と言い換えるか,あるいは一般用語と異なる意味を持つことを分かるように表現する(強調する・注釈をつける等)ほうが無用のトラブルを避けられるように思います。


個人的な経験としては,「過失」という言葉が法律用語として使われる場合,一般的な「失敗」という意味合いとはまた別に,「起きることを予見できたのに,回避することを怠った」という定義付けがあることを割と最近になるまで知りませんでした。日常的な話題ならともかく,司法に関する議論の場で一般用語の「過失」と法律用語の「過失」を区別していないと,話がかみ合わなくなるでしょう。たまたま某所で司法関係者(と思われる方)の解説があったのでようやく理解できた次第です。もっとも刑事における「過失」と民事における「過失」の概念も厳密に言うと同じではないらしく,そこまでいくともはや「違う」ということ以外よく分からないのですが。


専門家同士で議論するときには断らなくても暗黙の了解でことは済んでいるわけですが,非専門家が加わった議論,特にネット上の議論では誤解や行き違いが生じる可能性が出てきます。非専門家が議論の土俵に乗るためには,自分の使っている言葉が意図しない解釈をされる可能性があることを考慮しながら,極力そうならないように勉強するべきでしょうし,専門家としても非専門家に理解してほしいと考えるのなら,そういった非専門家が土俵に乗ろうとする努力を手助けすることも必要だと思います。そのためには議論している両者の間に信頼関係が必要ということになるんでしょうけど,そもそも互いに不信感を抱いていることで理解しようとする努力がなされず,むしろ誤解や行き違いを招いてしまい,さらに不信を助長することになるという現実もあるあたり,難しいところです。