在宅医療における格差


医療費抑制政策の下で療養型病床が削減され,老健施設をはじめとした介護施設が慢性的に不足しているなかで,厚労省は積極的に在宅医療を推進しようとしています。ただし,厚労省がいう「在宅医療」には「自宅」の他に「居住系施設」が含まれています。「居住系施設」というのは有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅のような,自宅と介護施設の中間にあたる施設ですが,特に高齢者専用賃貸住宅は老人ホームの規制から除外されていることもあり,最近注目されているようです。


今年4月の診療報酬改訂で「在宅患者訪問診療料2」*1が新設されましたが,それまで居住系施設に入居されている方は「同一患家」とみなされて一人分しか訪問診療料が算定できなかったのが,人数分算定できるようになりました。そのかわり単価は8300円から2000円に切り下げられています*2。つまり,そうした居住系施設に入居されている方をまとめて診察するような診療形態へと誘導しているとも考えられます。


当方がこれまで自宅で訪問診療していた方が高齢者専用賃貸住宅に入居するというケースもあったのですが,確かに同じ建物内にデイサービスやヘルパーステーションがあったりして,自宅で老老介護をしているよりはまだ安心していられるようには見えます。メディアでも好意的な取り上げ方をされているようです*3


ただし,最低でも月10万円を越える利用料がかかるため,対象は中〜高所得高齢者ということになります。利用料が負担できない低所得の高齢者にとっては,依然として老健施設への膨大な順番待ちの列に並びながら狭義の在宅である「自宅」での介護という選択しかなく,もし厚労省が「居住系施設」を重視して在宅率を上げようとしているとすれば,「在宅」医療における経済格差が今後大きな問題となってくるような気がします。