社会保障政策の選択肢

社会保障費を削減するという政策が導入されたこの数年,様々な問題が表面化しています。人とお金がない現場を医療者のモラルだけで支えること不可能であり,数多くの犠牲の末ようやく非医療者の方々にも実状が伝わるようになってきたのが最近の話です。これは医療だけでなく,むしろ介護・福祉分野の方が悲惨な状況といえるでしょう。政権内部から「2200億円の社会保障費削減は限界」との発言が出始めたのもそうした現状を踏まえてのことかと思います。社会保障国民会議が日本の社会保障にどれくらいの費用を投入すべきかという試算を行い,さらなる財源が必要であるとの結論を出したことに関しては今後の政策決定に必要なことであり,評価すべきであると当方は考えます。


ただ報道を見ている限り,景気の冷え込みを背景に公共投資を見直す声は大きくても現時点で社会保障費の水準を今以上に引き上げようという声は政治の世界からなかなか聞こえてきません。景気が悪いときはまず内需を拡大するのが先であり,社会保障などというものは経済の足を引っ張る存在である,というのが多くの方の発想なのかも知れません。ただ,医療・介護・福祉そのものの社会的ニーズは今後増加する筈ですから,そこに必要な資金を投入すれば内需の拡大にはかなり貢献する,という意見*1は個人的には納得できます。もちろんそのあたりはかなり政治的判断によって左右する話なんでしょうけど…。


今日の朝日新聞社説でも社会保障政策の話題に触れていました。

福祉の財源―先送りはもう許されぬ - 朝日新聞

基礎年金の国庫負担割合を、予定通り来年4月から2分の1へ引き上げることがようやく決まった。
だが、懸案はまだ半分も解決していない。裏付けとなる「安定財源」がまったく示されていないからだ。こちらの方がはるかに難問だ。
引き上げに必要な年間2.3兆〜2.5兆円の資金を、政府・与党は来年度、財政投融資特別会計のいわゆる「埋蔵金」からひねり出すとしている。これは事実上の国債発行であり、一時しのぎに過ぎない。2年目以降はどうするつもりなのか。

「私は逃げない」と麻生首相は言うなら、説得力のある目標を掲げて見せたらどうか。さらにそれを閣議決定し法案として国会へ出すことだ。
民主党にとっても、社会保障の将来ビジョンを示すいい機会ではないか。安心の設計図を政党が示し競い合うことを、国民は求めているはずだ。


将来の不安を軽減するために将来的な政策方針を国民に提示するのが重要であるという点は同意します。ちなみに民主党としての見解は社会保障費の削減はやめて財源を集中的に投入し,財源としては「埋蔵金」などを当てるという主旨で,確かに明快ではあります*2。ただ疑問なのは,増税せずに「埋蔵金」ということになると,上記社説によれば「事実上の国債発行であり、一時しのぎに過ぎない」ことになり,自民党と同様に説得力に欠けることになるような気がしますがどうなんでしょうか。


いずれにせよ来るべき衆議院選挙に当たっては,自民党民主党ともに,より具体的で説得力のある政策を提示して頂き,その上で投票権を行使したいものです。社会常識に乏しく政治経済に暗い当方もせいぜい頑張って勉強したいと思います。