英国の家庭医制度を紹介


現在厚労省の班会議で後期研修医制度について討論されています。今のところ各方面の関係者からヒアリングを行っている段階のようですが,今回はイギリスの家庭医に現地の状況を話して頂いたとのことです。


英国の家庭医制度を紹介―厚労省研究班 - CBニュース

「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」(班長=土屋了介・国立がんセンター中央病院長)の第8回班会議が2月9日、東京都内で開かれた。英国家庭医学会のロジャー・ネイバー前会長が「ひとつの国の保健サービスへ家庭医療が果たす役割:英国の経験」と題して講演し、英国の家庭医制度について紹介した。ネイバー前会長は「国内総生産GDP)が変わらなくても、家庭医制度によって、ヘルスケアは改善されて患者の満足度は向上し、医療労働力が効率的に利用される」などと家庭医制度のメリットを語った。


現状は専門医が多すぎるので数を絞り,代わりに家庭医を養成して医療を支えようという議論の流れでイギリスの家庭医を持ち出す意図は理解できなくはありません。実際のところ,CBニュースの記事だけ読むとそれなりに納得してしまいそうです。ところがロハスメディカルの議事録によれば,CBニュースには出ていないやりとりがあるようです。


後期研修班会議8 - ロハスメディカル

アクセス時間の問題はたしかに弱いところだが、GPの収入に貢献しているところでもある。緊急の時には2日以内にGPと面談できる。ある特定のGPを指定した場合はその限りではない。時間管理はイギリスの弱点で、救急はともかく、慢性ケアは時間的には優れていない。それは病院への投資が過少だからで、たとえば吐血などの場合には2日以内にGPが診て、2週間以内に治療が開始されなければならないというのが政府の目標として明文化されている。

GP=general physicianつまり家庭医のことです。たとえ家庭医制度が整備されていたとしても,医療に投入する予算を削減し続ければこういう結果になる訳で,ある意味日本にとっては反面教師にすべき点があるとは思います。単純に家庭医制度を導入すれば満足度が上がる,と言われるとかなり疑問です。さらに,僻地に家庭医を配置する方法についての質問に対しては,

これは世界共通だと思うのだが、医師の多くは文化的なよい地域で働きたいと思っている、貧困地区や僻地はイヤというのが人情。そのために貧困地区では給料が高くなっていて、それがインセンティブになっている。僻地勤務の手当てもある。中には僻地の勤務や貧困地区での勤務を望む人もいる。ある医師が亡くなって家庭医の定員に空きが出ると地方自治体から募集がかかって埋める。

ひとが嫌がるところには余分に給料を払う,という身も蓋もない回答でした。NHSは国家機関だからてっきり公務員のような人事なんだろうと勝手に思いこんでいましたが,そうでもないようです。そのあとの発言にありますが,現状の診療報酬のシステムだと専門医より家庭医のほうが収入が多いために人気があるとのことで,これも意外でした。


結局のところ,制度をあれこれ見直して専門医と家庭医の割合をいじったり医師配置を「適正化」したところで,それだけで医療費削減した分を埋め合わせできるわけではなく,それなりに予算は投入しなければいけないというだけの話なんでしょう。この研究班の議事録を最初から読んでみても,何か暗黙の了解があるのではと勘ぐってしまうくらい「予算」とか「インセンティブ」の話が出てこないのですが,イギリスの貴重な教訓が今後の議論に生かされるかどうか,注目していきたいと思います。

これまで英国の医療の状況について色々な情報はあったが、当事者から伺えたことで、かなり正確に家庭医の良い面が理解できた。しかしながら英国とわが国では地政学的な面は違うので、参考にしながらわが国独自の制度をつくりあげていかねばならない。

座長の土屋先生のコメントが何となくおざなりに聞こえるのは,きっと当方の考えすぎでしょうね。