財務官僚から見たインフルエンザ問題


新型インフル、予算面で新しい措置講じなくても対応可=杉本財務次官 - ロイター

杉本次官は、新型インフルエンザ対策について、1)抗ウイルス薬「タミフル」「リレンザ」は十分な備蓄を確保、2)十分な医療体制も整備、3)仮にワクチンを製造する必要が出てきたとしても、2009年度当初予算と補正予算で対応可能──などとして「現在のところ、特に予算面で新しい措置を講じなくても対応が可能だ」との認識を示した。

一方、新型インフルエンザが日本経済に与える影響については、海外旅行の減少や海外経済の落ち込みによる輸出の減少、医療費の増加などを挙げ「今後も注意深く見守っていきたい」と語った。


財務省官僚としては医療や公衆衛生は管轄ではありませんから,あくまで財政政策における問題の一つという文脈なんでしょう。そう考えると国民の健康より先に財政への負担を心配するのも無理もありません。


とはいえ「十分な医療体制も整備」という認識は客観的に考えて,あまりにも現状からかけ離れています。そもそも日常の診療体制が違法レベルの労働量によって支えられているのに,どう考えても新型インフルエンザに投入する人員と費用を捻出する余裕がある訳がありません。このままパンデミックに突入したら,インフルエンザに対する対処がまともにできないばかりか従来の診療まで回らなくなるという事態は十分あり得ます。


こうした発言を拝見すると,財務を預かる方にとっては,「十分な医療体制」よりもインフルエンザ対策に対する追加予算という「損失」をいかに最小限に抑えるかが問題であるようにも見えます。その裏には医療などは社会全体にとっては財政の足を引っ張る存在に過ぎないという考えがあるのかも知れません。ただ少し考えれば「十分な医療体制」に投入する予算を惜しんだ結果として流行が拡大したり従来の医療に支障を来した場合,社員の病欠などで企業の活動が低下したりインフラが止まったりと社会全体で莫大な経済的損失が生じることは容易に予想できるわけです。


確かに私情や感情論を排して損得勘定するのが官僚の仕事ではあるんでしょうけど,であればせめて正しい現状認識と,もう少しだけ将来の事態まで考慮した判断をお願いしたいと個人的には思います。

追記(2009-05-13 00:50)

id:reservoirさんのところで会見内容が紹介されていました。