適正な介護認定審査のために


先月から介護認定審査委員に参加している新米審査委員としての感想です。認識の誤りなどあったら先輩諸先生方からご指摘いただければ幸いです。


だいたい月2回のペースで,当初3月以前の旧基準と4月以降の新基準が混在していたのが前回あたりにはほとんど新基準に移行した感じです。本来必要と思われる要介護度より一次判定が2段階以上低いケースが時々見受けられますが,逆に妙に高いこともあったりして,全体的な傾向は以前を知らないので何とも言えないところ。昨年度から留任された委員の話だと「なんとなく一次判定が低めになった気がする」とのことでした。


建前上は一次判定が不完全なのでそれを修正するための審査委員ということにはなっているのですが,実際には一次判定を変更するには相当の根拠を示す必要があって,そのことは講習会でも繰り返し言われましたし,審査委員テキストにも明記されています。

議論は,特記事項または主治医意見書に記載された介護の手間の記載に基づいて行ってください。それ以外の情報は,議論の参考にすることはできますが,一次判定変更の理由にはなりません。したがって,特記事項または主治医意見書に具体的な介護の手間を読み取ることができない場合は,一次判定を変更することはできません。

ここは3月以前と比べてかなり高いハードルになっているようです。調査員による身体機能,生活の自立度,認知症の程度といった基本調査は一次判定結果に含まれているので,それ以外の特記事項から介護の負担を増大させている要因を指摘しなければなりません。医師が記載する主治医意見書にも記入する項目は山のようにありますが,ほとんどは基本調査と重複していて「参考」程度にしかされず*1,結局のところ最も重要なのは最後の「特記すべき事項」ということになります。


調査員の特記事項と主治医意見書のどちらかから具体的に一次判定を変更する根拠が拾えればいいのですが,「認知症が強い」とか「身体機能が低下している」のような一次判定に含まれる所見は採用できません。さらに「高齢であること」「独居であること」だけではダメで,それによって介護の手間が余計に発生していることを明記する必要があるとのことです。もっともそれ以前に,特記事項にほとんど記載のない調査書や意見書がけっこう多いのですが…。


困るのは,例えば審査委員が全員一致で介護3相当という意見でも一次判定が介護1しかなく,変更したくてもその根拠が調査書や意見書のどこを読んでも見つからないというケースです。本来必要と思われるサービスを介護保険の範囲で受けられなければ,申請者に余計な負担がかかる可能性が出てきます。適切な要介護度を決定するために,主治医が特記事項をキチンと書く必要性が大きくなっている*2ことはもっと周知されてもいいと思います。


これほど一次判定を変更するハードルを上げたのは,これまでのデータの蓄積で精度が良くなったからというのが厚労省の言い分のようです。本当に精度が良くなったか施行する前から分かるなんて随分な自信ですが,おかげでこちらは本筋から外れた議論に時間を費やさなければなりません。二次審査の権限が小さくなるのは制度変更前から指摘されていたとのことですが,実感としてはその通りでしょう。


話がややこしいのは,批判を和らげるために今回の審査に限り前回と同じ介護度になる「経過措置」を申請者が選択することができて*3,そうなると新基準に問題があった場合それが表面化するのは次回申請の半年ないし1年先になる訳です。単に先送りではなく,その間に問題点を見直すことを望みます。


 

*1:ただし「認知症の周辺症状」と「身体の状態」は基本調査に含まれていないそうです。

*2:もちろん医師にとってはさらなる業務外雑事が増える話ではありますが。

*3:大多数が経過措置を希望されるそうです。