院内事故調査の検証


東京医大、生体肝移植死で遺族に謝罪と3千万円 - 読売新聞 cache
東京医科大の生体肝移植問題 厚労相、調査を検討 - 朝日新聞 cache
東京医科大八王子医療センター:生体肝移植死 生存率、過大に説明 複数患者に - 毎日新聞 cache

各紙の報道を読む限りでは「患者側に事実と異なる説明を行ったこと」と「不適切な治療を行ったこと」が問題となっているようです。民事訴訟にはなっていないようなので,おそらく当事者間での交渉によって賠償額が決まったのでしょう。ところで読売新聞の記事によれば

大学側の検証委員会は「不適切な医療行為はなかった」と報告書を発表しており、厚生労働省は事情聴取する方針だ。

とのことですから,内部調査では医療行為そのものは適切であったとしています。にもかかわらず,

高沢謙二センター長は「患者の病状把握が不十分で、不適切だったと言われても仕方ない」と話している。

医療機関のトップ自身が治療は適切でなかったと認めていることになります。したがって,報道された事実を前提にするなら,医療機関のトップが検証委員会での検討を誤りだと判断したのか,そうではないが何らかの事情であえて不適切と認めたのかのいずれかでしょう。各紙報道だとそもそも読売新聞以外は検証委員会そのものにも触れていなくて,読売新聞も特に検証もせず治療は不適切であったことが前提の記事になっています。厚労省も介入する姿勢を見せていますが,やはり検証委員会に問題があるという前提のようにも読めます。

検証委員会での検討に問題があったとトップが判断したのであれば,再調査を命じる,あるいは検証委員会のあり方そのものを見直す必要はあると思いますが,報道ではそこまでは分かりません。そのあたりは医療機関側が明示していかないと今後の信頼に関わる話だと考えます。

一方,仮に検証委員会での結論は妥当であるとしながらもトップが不適切であるという結論を下したとすれば,医療スタッフにしてみれば対外的な名目のために濡れ衣を着せられたようなもので,とても納得できないでしょう。また,こういう解決方法ではその場の訴訟は回避できるかもしれませんが,内部職員の士気にかかわるのはもちろんですが,何のための検証委員会かということになり,形骸化して,自らをチェックする機能としては意味を失っていくのではないかと思います。

医療事故に対して司法が介入すべきであるという主張のさい,医療側で自らチェックする機能が整備されていないことがしばしば指摘されます。院内の事故調査委員会がキチンと機能していることを示さないと,そうした主張を裏付けることにもなってしまいます。紛争を回避して終わりとせず,今回の検証委員会による結論の妥当性を示すようにしていかないと,結局は自分たちの首を絞めることになるのではないかと危惧します。