日本医師会の医療事故調に関する答申


医療事故による死亡に対する責任のあり方について - 日本医師会 医療事故における責任問題検討委員会(PDF)

答申の骨子
1 医療事故が起きた後の法的責任を整理して、改革するよう提言する。改革の力点は、医療事故では制裁よりも原因究明と再発防止が何よりも重要だということである。 医療事故の刑事責任の追及は、事故調査を優先し、医療のリスクを配慮して、故意またはそれに準ずる悪質なケースに限るべきである。
2 事故調査の第三者機関と、刑事処分の後追いでない行政処分の新システムが必要である。これが患者を守る医療安全のための車の両輪となるべきである。
3 いずれも専門職 (プロフェッション)たる医療者が中心になって自律的に取り組み、国民に開かれた形で透明性を確保して医療への信頼を高めるべきである。

日本医師会から出た医療事故に関する答申を読んでみました。以前は木下理事が厚労省の大綱案を強力にプッシュしていましたが,その後日医内でも新たに委員会を立ち上げて検討していたとのことです。この骨子を見る限り「医療事故では制裁よりも原因究明と再発防止が何よりも重要」と明言しているのはいいことだと思います。「医療者の自律」についても異存はありません。では法的制裁より原因究明を優先するにはどうするかというのが問題で,このあたりの絡みで以前に法務省当局とのありもしない口約束をほのめかしたりといった悶着があったように記憶しています。

そこでこの答申でいう「刑事処分の後追いでない行政処分の新システムが必要」が意味するところは何だろうと考えると,これまでは刑事処分の後追いばかりしていたのが問題であり,行政処分を独自に行って自立性を示せば司法は謙抑的でいてくれるだろうということのようです。では事故調査と行政処分を行う機関の所属はどこを想定しているのかというと,答申を一通り読んでみた限りでは特に具体的には示されていません。当然のように所轄官庁である厚労省の下部組織であるべきというのが暗黙の了解なら,これはまたずいぶん厚労省に都合のいい答申だなあという気がします。邪推すれば,そこの議論はあえて避けて通ったのかもしれません。

個人的には,医療と法の境界領域を扱う機関ということであれば,厚労省の権限内だけでは実効が限られますし,さらには厚労省の医療行政に問題があった場合にそれが適切に指摘されない可能性が高いことから,厚労省単独の管轄では不充分だと思っています。検討会のなかでも,たとえば内閣直轄でもいいのではという提案があったはずです(スルーされていますが)。

では民主党案に関してはどうなのかといえば,木下常任理事の会見によると,

「院内事故調査委員会や別の所で原因究明をして、遺族が納得しなければいつでも警察に飛び込んでいいという仕組みなので、現行と何ら変わりはないという受け止め方をしている」などと述べた。

とのことです。「いつでも警察に飛び込んでいい」のは日医の答申でも変わらないわけでちょっと理解に苦しみますが,基本的には厚労省大綱案支持の姿勢は崩していないと解釈すれば,政権交代したからといって受け入れられないというのは分からなくもありません。