自白の心理学

自白の心理学 (岩波新書)

自白の心理学 (岩波新書)

身に覚えのない犯罪を自白する。そんなことはありうるのだろうか?しかもいったんなされた自白は、司法の場で限りない重みを持つ。心理学の立場から冤罪事件に関わってきた著者が、甲山事件、仁保事件など、自白が大きな争点になった事件の取調べ過程を細かに分析し、「自分に不利なうそ」をつくに至る心のメカニズムを検証する。

先日横浜の大学生誤認逮捕の報道を読んで,買ったまま積んであったこの本を手にとってみました。取り調べという非日常の場で圧力を加えられ,自分がやっていないと分かっていても(むしろ,やっていないと分かっているからこそ)犯行を自白してしまい,なおかつ極めて詳細に供述する過程が解説されています。

正直,自分がその場にいたら抵抗できる自信はないのですが,恐ろしいことにそうなる可能性は誰にもあるわけです。今回の誤認逮捕についても,断片的に伝わってくる情報と照らし合わせる限りITへの対応が後手に回ったという点を別にすれば,過去の冤罪事件と構造は変わっていないんじゃないか…というのが個人的感想です。

ではどうすればよいかといえば,嘘の自白には嘘であることによる特徴が出るので,取り調べを透明化することでそれをチェックしあるいは予防できるのではないか,というのが著者の提言のようです。ただ取り調べの透明化についても実務の立場からはメリットばかりではないという議論もあって,なかなか非専門家には分かりにくいところですが…。

今日,大学生が冤罪であるとようやく認められたのを受けた父親のコメントが出ていました。

決定を受けて大学生の父親が報道各社にコメントを寄せた。「息子は否認にもかかわらず、警察・検察から不当な圧力を受け、理不尽な質問で繰り返し問い詰められ続けた」と捜査を批判。「家族への配慮と自分の将来を考え、絶望の中で事実を曲げ『自分がやった』と自供した。息子の心情を思うと、やりきれない」「最も悲しいのは、親が息子の無実を疑ってしまったこと」と心情を吐露した。

朝日新聞デジタル:誤認逮捕の大学生、処分取り消し 父親「やりきれない」 - 社会

自白したという事実の前で肉親の信頼も揺らいでしまい,無実が証明されても深い傷跡が残るのでしょう。読んでいて辛くなります。