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「医療の限界」を読む

医療の限界 (新潮新書)

医療の限界 (新潮新書)

ようやく到着しました。

前作「医療崩壊立ち去り型サボタージュとは何か」は警察の問題,法曹(検察・弁護士)の問題,患者の問題,病院経営者の問題,大学・医局の問題,厚労省の問題と多岐にわたっていましたが,今回は読者層を広げるためか,医療の不確実性に重点を置いた構成になっています。文体が柔らかくなっているのも一般読者を意識したのかも知れません。全体の主旨に大きな変わりはありませんが,前作が出版されたあとの福島県立大野病院の事件に関する知見が加わり,また医療へ市場原理主義を持ち込むことの危険性を日米の文化を踏まえて論じるのに新たな一章を費やしています。

医療崩壊を食い止める策としてはやはり「国民的議論」という結論でした。たしかに理想ですし解決案を出そうとすればそれしかないのですが,そのためには「国民」が議論のテーブルに乗っていただく必要があります。大多数の「国民」が医療崩壊の当事者となった暁には嫌でも乗らざるを得ないのでしょうけれど,それでは手遅れです。そうならないうちに危機を広く認知して頂くための本書なんでしょうけれど...。


個人的に印象に残ったのは日本法医学会の「異状死ガイドライン」に関する一節です。

異状死体は広く届け出る必要があり,専門家が社会の安全の観点から死因を究明することが重要だということでした。日本の警察の能力では適切に処理できないということです。
第三章 医療と司法 p85-86

犯罪と関係ないと思われる死因でも社会的に原因を究明すべきであるとのことで,医療関連死に関してもまさにその通りだと思います。以前講演会で法医学の先生が「犯罪性がなければいいのだから,異状死か迷う例はとりあえず届けるべきだ」とお話しされていましたが,そもそも犯罪性の有無を判断する部署がその能力を備えていないのではないかという危惧はまったく解消されないままでした。