エンターテインメントと医療

ジェネラル・ルージュの凱旋

ジェネラル・ルージュの凱旋


同じ作者の「チーム・バチスタの栄光」は割と面白く読みました。「このミステリーがすごい」大賞を取るくらいですから立派なミステリーですが,落ちが弱いのは作者が医師であるために話の展開をトンデモではなく医学的に許容できる範囲に納めようとしたから,と解釈していました。ところが次の「ナイチンゲールの沈黙」では思い切りあちらの世界の彼方に飛び去っていてビックリ。昨年北海道から移住するフェリーの中で1作目と2作目まで読んだところで,そのあと読もうとする意欲がすっかり失われてしまいました。

最近になって気を取り直してこの3作目を読んでみたのですが,1作目のようなミステリーでも2作目のようなファンタジーでもなく正統派の医療ドラマになっていて,それなりに楽しく読めました。カリスマ救急医がいて,医療政策の矛盾や学内政治が絡んできて,エーアイの宣伝が少し,ちゃんと分かりやすい悪役も登場して最後にきっちりと決着がつくという非常に分かりやすい展開です。その分あの白鳥室長の影が大分薄くなってますが。

「エーアイを啓蒙するためにチーム・バチスタを書いた」と公言されるくらいなので,本作にもそこかしこに作者の主張が見え隠れしています。非医療者を啓蒙する手法としてこういうエンターテインメントを利用するという発想は思いついても,「面白さ」「わかりやすさ」と「正確さ」「客観性」のバランスをうまく取るのがなかなか難しそうです。いわゆる「医療ドラマ」の多くは後者を明らかに軽視していて,当然のことながら医療者の評判は良くないことが多いのですが,本作ではそういう方向からのツッコミどころはあまり見あたらない*1ように思います。

ただ,リアルな医療現場の問題を提起したいのであれば,登場人物は過度にデフォルメされていない普通の医師*2の方が説得力があるような気もするんですが,もちろん実際には,現実離れした強烈なキャラが立っている方がインパクトは強いし,TVドラマ化や映画化はしやすいんでしょう。その辺のバランスも難しいですね。まあ現実にも強烈なキャラの医師もいないことはないんですが,違う意味で却下されそうな気もします。

あと本作に関して一点付け加えると,どうしてドクターヘリにあんなに固執するのかは,少し疑問に思います。


 

*1:あくまで当方のレベルで。救急の先生からはツッコミがあるのかも知れません。

*2:例えばのりのり先生の医療ドラマみたいに。