医療安全調査委員会と行政処分


厚労省:医療機関に改善命令 死亡事故で法改正へ(cache) - 毎日新聞 2008年2月21日

 過失による医療死亡事故が起きた場合、現行では行政が医療機関の責任を追及することはなく、医師個人への医業停止処分なども刑事事件化されたケースにほぼ限られている。しかし「個人の処分だけでは、複合的な要因で起きる事故に対応できない」との指摘もあり、厚労省は再発防止を主眼に行政処分の見直しを急いでいた。


 新設する業務改善命令は、10年度にも発足する死因究明の第三者機関「医療安全調査委員会(仮称)」と連動。調査の結果、▽故意や重大な過失▽事故の繰り返し▽カルテの改ざん−−などが判明した場合、国か自治体が安全確保の計画書と再発防止策を出させる制度を想定している。命令に従わない場合は、管理者の変更や施設閉鎖を命じる。

医療機関におけるリスクマネージメントが充分機能していないという面も確かにあるんでしょうけど,その背景にはマンパワーが不足していたり,安全対策に対するコストを負担できないという現状があって,もとをただせばそうした現状に即していない医療行政にもその責任の一端があるんじゃないかと思うんですが。

この記事を読むと,医療機関で起こるシステムエラーの責任はすべて医療機関内部にあり,行政側が処分を強化することで再発予防が出来るような書き方をしています。こういう記事はだいたいが官庁側の資料に沿って書かれていて実質上厚労省の見解であることを踏まえると,当方の感想としては「お前がそれを言うか?」くらいしかありません。


それはそれとして,さりげなく書いてある最後の一文も気になりました。

また、医師個人に対しても、調査委で重大な過失などが認定されれば、刑事処分を待たずに処分する方針だ。

あまり自信はないんですが,医師への行政処分に関しては,これまで法的な調査権限の根拠がなく,結局は刑事手続きが確定してから後追い的に処分してきたという経緯があって,それではよろしくないと言うことで2006年の医療法改正で調査権限が与えられたと理解しています。ですから厚生労働省が独自に医療事故を調査し適正な処分を行う能力があるかどうかはともかく,行政処分と刑事処分は本来別の話,の筈です。

「医療安全調査委員会」を設立する目的は医療事故の原因を調査して再発予防に役立てることにあるはずで,そこに行政処分を乗せるというのは結局のところ,せっかく法的根拠を与えられた調査権を第三者機関に丸投げする方針のようにも見えます。あるいは調査を丸投げしても処分する権限だけは握っておくということかも知れませんが…。

厚生労働省が医師を管理統制する権限をこれ以上強化することは好ましくありませんが,かといって医療業界内部で医師に対する処分が適正に行われていない(と少なくとも外部から疑われるような)やり方を続けていては,かえって司法の介入を正当化することになってしまいます。まともな専門家の知見を反映しながら医療法で定められた調査権限が機能するような方策を検討するべきと個人的には考えるのですがどうなんでしょうか。

追記(2008-2-22 18:15)

キャリアブレインニュースによれば2/20の死因究明等の在り方に関する検討会で行政処分のあり方が議題に上がったようです。上記の記事のソースと同じかどうかは不明ですが…。ロハスメディカルブログにも詳しい傍聴記が掲載されている(現在更新中)ので,そちらを読んだ上でもう一度よく考えてみようと思います。