療養病床削減政策の撤回
<療養病床>削減を断念「25万床維持必要」 厚労省 - Yahoo!ニュース cache
長期入院する慢性病の高齢者向け施設である医療型「療養病床」(25万床)を11年度末までに4割減らす計画について、厚生労働省は削減を断念し、現状維持する方針に転換した。都道府県ごとに需要を調査した結果、25万床前後の確保が必要と判断した。厚労省は療養病床削減により医療給付費を3000億円削減する方針だったが、今回の計画断念で高齢者の医療費抑制政策全般にも影響を与えることは必至だ。
社会的入院による医療費を削減するためには受け入れるベッドを減らせばいい,という理屈で政策を進めてきた厚生労働省でしたが,結局は断念したという記事です。当初からどう考えても無理があるのではないかという意見が多く,おそらくは厚生労働省自身もそのことはある程度理解はしていたのではないかと思います。ただ次の記事をあわせて読むと,自ら誤りを認めて軌道修正したというよりは,衆議院選挙を踏まえた政治的思惑が絡んでいるのではないかという気がします。
「医療介護難民は11万人」―療養病床削減問題 - キャリアブレイン
「療養病床問題を考える国会議員の会」で厚生労働省の担当者と現場の医師,国会議員のやりとりを抜粋した記事で,厚労省官僚の言い訳のあたりも面白いのですが,かなり長いので終わり近くの一部だけを引用します(強調は引用者による)。
元脳外科医でケアマネジャーの資格も持つ清水鴻一郎衆院議員は、「原点に戻って考えていただきたい。医療と介護は切り離せない。両方必要な人がいるため、『介護が必要だが、医療も必要なために病院にいる』という区分ができたことは介護保険ができた時のヒットで、国民に安心を与えた。表にすると差がない、というが、国民のニーズに応えてきた。本当にこれ(介護型療養病床の全廃)を実施する意味があるのか、国民が幸せになるのか、もう一度考える必要がある」と述べた。また、後期高齢者医療制度で国民から不信を買っていることにも触れた。「長く生きてこられた方の人生のプライドを傷つけたかもしれない。国民の75歳以上にとってうれしくない制度だったのは事実。これ(介護型療養病床の全廃)が進むと自民党は高齢者いじめと言われ、山口の補選でも負けたが、選挙にならないぐらい厳しくなるだろう。いろいろ言っても、根本的にやらなくてよかった制度が、医療費削減のためにやられていると国民には見えてしまう。2200億円の命題があるのは事実で、財務大臣はどうしてもやるという方向にあるので、根本的な考え方がどうなのかということ」と述べた。
医療費全体が増えない限り,療養病床削減によって節約する予定だった分が足りなくなりますから,どこかで帳尻を合わせなくてはならないことになります。医療費削減政策という命題そのものを見直すことまで視野に入れているなら良いのですが,そうでなければどこか他の分野が煽りを食らうことになるのでしょう。目先の選挙対策ではなく,長期的な方針を立てる必要があります。
税制調査会長の津島雄二衆院議員は、「(2200億円削減を)来年やるということは決めてない」と述べた上で、厚労相を務めた2000年の介護保険創設当時を振り返った。
「医療と介護の両方が必要な人がいるという議論をしっかりしなかった。当時の発想は、それぞれの制度(医療型と介護型)を立てたのでその機能を発揮できるようにするにはどうすればいいかということだった。医療は健保組合、政管健保もある。しかし介護保険は自治体がベースになるので、責任は厚労省ではなく自治体が取るべきという考え方に流れてきた。そのうち実態が違うと分かってきて、療養中心か介護中心かに分けようとした傾向がある。なぜそうなったかというと財政改革優先路線だったということだ」と述べ、異なる保険制度で療養病床を区分し、再編に進む現在の流れが財政に主導を取られていると明言した。
さらに、「少子・高齢社会で医療や年金の負担が上がるのは日本の宿命と認めて、向き合うことが必要。それをやらないで与党も野党もごまかしている。野党も毎年2兆円ずつ経常的に増える社会保障給付費用について、無駄を探せば2兆円できると言って逃げてしまう。これが続いているうちは日本の福祉制度の構築は難しい。この日本を悪くしている。来年度予算編成の最大の問題はシーリング、特に厚労省のシーリングだ。これは現職の官僚に言っても駄目なので、わたしたち政治家が党内外で政治生命懸けてやる仕事だ。仮にシーリングをなくすなら負担と向き合わなければならないが、誰が国民に向かってその問題を対話できるかが問われていく。この問題(介護型の全廃)も実態に合うように取り組んでいくし、少しは(厚労省の)担当者にもやりやすいようにしてあげたい」と述べた。
制度創設当時の経緯はともかく,今後の方針としては大筋で同意できます。財源の問題を正面切って取り上げるのは政治家としては大変な仕事だと思いますが,きわめて重要なことです。誰の負担も増やさずに社会保障を維持することは不可能でしょうから,誰がどれだけ負担するかによるメリットとデメリットを説明したうえで同意を得るという,社会的なインフォームド・コンセントが必要になっていくと考えます。