過労死と安全配慮義務


医師の過労死、損害賠償請求を棄却−東京高裁 - CBニュース

小児科医中原利郎さん(当時44歳)がうつ病によって自殺したのは、最大で月8回に及ぶ宿直勤務をこなすなど過重な労働が原因として、遺族らが、勤務先だった病院を運営する立正佼成会の「安全配慮義務違反」などを理由に損害賠償を求めた民事訴訟控訴審判決が10月22日、東京高裁であり、鈴木健太裁判長は原告側の訴えを棄却した。


行政訴訟では過労死が認定されたものの,民事訴訟では雇用側である病院の安全配慮義務違反は認められなかったということのようです。以前の報道によれば,原告である中原医師の奥様は過労死認定までも相当な努力をされたようですし,今回の判決はさぞ無念なことと思います。近年は過労死について行政訴訟とは別に雇用主に対して民事訴訟が起こされ,さらに原告側主張が認められる傾向にあると聞いていたので期待していましたが叶いませんでした。争われた事実関係を詳細には知らないのですが,医師であることが判決に影響していたのかというあたりも気になります。


民事訴訟はあくまで当事者間の争いであって,この判決によって医師の過労死に対する病院の安全配慮義務が否定されたと一般化されることは,少なくとも法律関係者のあいだでは多分ないのでしょう。ただ,あまりにも劣悪な労働環境が軽視されるなかで,もし安全配慮義務違反の判決が出ていたら,少なくない病院でそんな風潮を考え直すきっかけにもなったかも知れないと考えると残念です。それ以上に,過労死ラインで勤務している医師が「現在の職場環境が改善される見込みはなさそうだ」と感じることで残された気力まで奪われるとすれば,その影響は計り知れないように思います。


いまのところソースは上記のCBニュースのみです。全国紙で取り上げるとしたらこれからなのかも知れませんが,今後どのように報道されていくのか,注目したいと思います。