社会保障の個人勘定


命の値段が高すぎる!―医療の貧困 (ちくま新書)

命の値段が高すぎる!―医療の貧困 (ちくま新書)

タイトルや「結局,医療のツケはサラリーマン」といった帯の煽り文句から受ける印象とは違い,医療崩壊問題を「医療費は誰が負担するべきなのか」という視点から割と客観的に述べていると感じました。


本書では,医療負担を「自己責任」「市場原理」に任せるべきと考える勢力が混合診療解禁や株式会社参入を推進し(結局は頓挫しましたが),メタボ検診とリンクする後期高齢者医療制度を作り,将来的にはオンラインレセプト請求や社会保障カードの導入を経て「社会保障の自己勘定」を目指していると解説されています。


社会保障の自己勘定」というのは耳慣れませんが,個人個人の医療・介護・年金といった社会保障の給付と負担を精算して,もらいすぎた方は税金で返してもらう,さらには医療貯蓄制度を設立して積立金を各自の運用に任せることを目指しているとのことです。


社会保障本来の意義から考えれば大きい集団に支えられた方が安定が得られるはずで,個人単位で精算するという考え方とは対極だと思うのですが,若い年齢層の負担が次第に増えてくることで不満が高まり,こうした「自己責任」論を支持する傾向が強まっているのではないかという考察は,確かにそうかもしれないと思わせます。


マニフェストのように「負担は増やさずに医療を手厚くする」なんていう意見と比べたら,賛否両論あるにせよ「自己責任」のほうがまだしも説得力を持ってしまいます。「自己責任」論を批判するにせよ,議論のスタートラインに立つためにはまず,すべてを解決する方法はないという厳しい現実は直視する必要はあるということなのでしょう。