事実とストーリーは対立しない


客観的な事実や証拠を重視することと,患者さんにとっての主観・ストーリーを重視することを対立した概念と捉えて,後者がより重要であるという主張があるようです。患者さんが持つご自身の病気についてのストーリーを重視するという手法はたしかにありますが,対立するというよりはむしろ,そのストーリーを医療者が共有することで,患者さんが客観的な事実を受け入れるような環境をつくることに意義があるものと理解しています。本来であれば共同するはずの二つの手法をあえて対立させることは,患者さんにとってよい治療がされるという目的からかえって遠ざかる結果になるのではないかと当方は考えます。それは,もともと治療がされるうえでお互いに協力し合うはずの患者さんと医療者を「被害者」「加害者」の二項対立に当てはめるのとよく似た発想ではないでしょうか。