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猛暑とインスリン製剤


在宅でインスリン自己注射を行っている患者さん宅に訪問診療していたのですが,これまでは治療へのコンプライアンスもよく,随時血糖は140〜160mg/dLと比較的安定していました。ところが7月下旬になり暑い日が続くようになってから次第に血糖が上がりはじめ,300mg/dLを超える日も出てきました。家族に話を伺っても食事療法は守られている様子で,服薬やインスリン注射もとくに問題なさそうです。見る限り感染症の徴候もなく,そうなると定石としては膵疾患などのスクリーニングや,抗インスリン抗体の検索も考えたいところです。

たまたま訪問してインスリンの残量を確認していたときに,キットが卓上に無造作に置いてあったのが気になって訊いてみたところ,どうやら未開封のインスリン製剤は冷蔵保存しているが,使用中のものは出しっぱなしとのことでした。この暑い盛り,インスリン蛋白質ですから温度が上がれば失活することは当然考えられます。添付文書を確認すると保存すべき温度は書いてあるのですが,何度まで上がると効果が落ちるかまでは分かりません。

そんなときタイミングよく@ShimoyamaT先生経由でインスリンの保管温度は何度(何℃)がよいか?夏の車内にご用心という記事を拝見しました。このグラフを見ると製剤の違いはありますが,おおむね気温が37℃を越えたあたりから急速に失活が進むことが分かります。真夏,とくに今シーズンのような猛暑では室内でも条件によってはこのくらいの温度になることはありそうです。上記の患者さん宅も空調設備がなく風通しも悪い非常に蒸し暑い状態でした。

結論からいうと,事情を話して新しい製剤を処方し,冷蔵庫冷暗所で管理してもらった結果,現時点では随時血糖は以前の水準である150mg/dL前後に落ち着いています。ほかに状況の変化もないのでやはりインスリン製剤の失活による高血糖と考えてよさそうです。もしかすると糖尿病の専門医であれば目新しい話ではないのかも知れませんが,当方としては新たな知識が増えたと同時に,治療において患者さんの生活環境が大きな影響を与えることを改めて実感する機会となりました。

訂正(2010-08-19 16:35)

調剤薬局とメーカー担当者から指摘されたのですが,開封したインスリン製剤を冷蔵庫で保管することは推奨されていないとのことです。上記の患者さんも調剤薬局が訪問指導して日の当たらない場所に保管するようにしていました。よって本文の該当部分については訂正させて頂きます。