ブログ納め


このところ月に1回の更新がやっとという有様ですが,これで本年のブログ納めとさせて頂きます。理想としてはTwitterでつぶやいたことを少しだけ深く掘り下げて文章にすればいいのでしょうけど,実際のところは,わざわざ掘り下げる気力が湧かずにそのままになっています。

個人的事情ですが,本業に時間がとられて余裕がなくなったというのは大きいです。開業して来年で5年目になりますが,迷走状態からようやく方向性が定まってきたところで(遅すぎる気もしますが),近隣の病院や施設からの紹介もあり,業務量が今年一年でそれなりに増えました。まあ,大変有り難いことではありますが,余裕がないのも確かです。

内面的なことをいうと,震災とその後も続く余波について,どう取り上げるべきか悩んだのは確かです。災害や原発事故そのものに関して素人知識で情報発信するのは憚られますし,そのための勉強も十分にできませんでした。かといって関心の大部分が向いているのにあえて他の話題を取り上げる気にならなかったのが正直なところです。

以前から患者-医師関係で問題となるような,専門性の壁やそれにまつわる自己決定問題といった話題に個人的関心はあって,時折エントリでも取り上げていました。今回は災害そのものと並行して「専門的な情報を社会へどう伝えるか」という課題が差し迫ったものになりました。今後は,そのあたりについて自分なりに整理できたことを書きたいなとは思っています。

あとはまあ,もうすこし気楽な話題を増やしてもいいのかもしれません。というか,もともとそういう主旨で始めた日記だったような…。

ともあれ,本年も多くの方々に訪問頂き御礼申し上げます。来年もどうかご贔屓の程をお願いいたします。


 

猛暑とインスリン製剤


在宅でインスリン自己注射を行っている患者さん宅に訪問診療していたのですが,これまでは治療へのコンプライアンスもよく,随時血糖は140〜160mg/dLと比較的安定していました。ところが7月下旬になり暑い日が続くようになってから次第に血糖が上がりはじめ,300mg/dLを超える日も出てきました。家族に話を伺っても食事療法は守られている様子で,服薬やインスリン注射もとくに問題なさそうです。見る限り感染症の徴候もなく,そうなると定石としては膵疾患などのスクリーニングや,抗インスリン抗体の検索も考えたいところです。

たまたま訪問してインスリンの残量を確認していたときに,キットが卓上に無造作に置いてあったのが気になって訊いてみたところ,どうやら未開封のインスリン製剤は冷蔵保存しているが,使用中のものは出しっぱなしとのことでした。この暑い盛り,インスリン蛋白質ですから温度が上がれば失活することは当然考えられます。添付文書を確認すると保存すべき温度は書いてあるのですが,何度まで上がると効果が落ちるかまでは分かりません。

そんなときタイミングよく@ShimoyamaT先生経由でインスリンの保管温度は何度(何℃)がよいか?夏の車内にご用心という記事を拝見しました。このグラフを見ると製剤の違いはありますが,おおむね気温が37℃を越えたあたりから急速に失活が進むことが分かります。真夏,とくに今シーズンのような猛暑では室内でも条件によってはこのくらいの温度になることはありそうです。上記の患者さん宅も空調設備がなく風通しも悪い非常に蒸し暑い状態でした。

結論からいうと,事情を話して新しい製剤を処方し,冷蔵庫冷暗所で管理してもらった結果,現時点では随時血糖は以前の水準である150mg/dL前後に落ち着いています。ほかに状況の変化もないのでやはりインスリン製剤の失活による高血糖と考えてよさそうです。もしかすると糖尿病の専門医であれば目新しい話ではないのかも知れませんが,当方としては新たな知識が増えたと同時に,治療において患者さんの生活環境が大きな影響を与えることを改めて実感する機会となりました。

訂正(2010-08-19 16:35)

調剤薬局とメーカー担当者から指摘されたのですが,開封したインスリン製剤を冷蔵庫で保管することは推奨されていないとのことです。上記の患者さんも調剤薬局が訪問指導して日の当たらない場所に保管するようにしていました。よって本文の該当部分については訂正させて頂きます。


 

連休前の対応

連休前にかかりつけで咳止め2週間分、「熱が出た時用」抗生物質1週間分を出されたという子どもが、 熱が下がらないと来院。いくら連休中休診でもこんな処方はNGだ。親もこんな処方に喜んだり安心したりしてはいけない。これは「念のため」ではなく「テキトー」な処方だからだ。

https://twitter.com/kimuratomo/status/13296101521

これは極端だとしても,連休前にはとりあえず何か処方してもらえば安心という気持ちが患者さん側にあって,医師がそれに応じてしまうケースは珍しくないのだと思います。それでも休日外来を受診してしまう以上,実際にはそうした処方が患者さんの安心に寄与していないわけで,処方が「テキトー」だからダメという以上に,患者さんの受診行動への方向付けが失敗しているといえます。当方も勤務医時代の日当直や医師会の休日当番で同様のケースをよく経験しましたから,当院での診療では,多くの典型的な急性期疾患については,予想される臨床経過とその対処を説明して,「休日・時間外でも受診するべき状態」がどういうものか理解して頂ければかなり違うような気がするし,できるだけそのようにしています。ただ,それでも休日に基幹病院の救急外来を受診した患者さんまでは把握しきれないので,効果があるのかいまひとつよく分からないのですが。だったら休診中でも対応しろ,という話になるのでしょうし,じっさい気がかりな患者さんについては連絡できるようにはしているのですが(この連休中は幸い問題ありませんでした),患者さんの安心のために際限なく対応すればよいというのは,それが開業医であっても病院であっても,正しくない受診行動への方向付けを助長する「テキトー」な対応策のように思えます。