PLAN75

話題になっていた映画「PLAN75」がアマプラで配信されていたので観てみました。

PLAN75というのが何なのかははっきり説明されませんが、劇中のテレビや会話から公的な安楽死のシステムであることが示唆されます。システムが導入された経緯はちょっと強引でしたが、細部の描写は至るところで実際に国が運営したらこんな感じになるんだろうなというリアリティがありました。劇的な展開もなく非日常の中の日常が淡々と過ぎていく演出で、登場人物の葛藤を暗示したり、終盤でちょっとした事件はありますが、それでも何も変わることなく過ぎるのだろうな…と思わせます。実際こういう世の中になるわけではないと信じたいですが、皆が悪意なくよかれと思っていた結果としてなんとなく嫌な方向に進んでいる感じはなんとなく実感できるのですよね。

読書感想「実践・倫理学」

コロナ禍のさなか、感染対策のために個人の権利にどこまで介入してよいのかという問題が生じることをしばしば見かけていたのですが、そんな折にYoutubeで「パンデミック倫理学」と題した動画を見る機会がありました(現在も視聴できます→https://www.youtube.com/watch?v=UL14YlKEglc&list=PLRdmV4a9IuG0_wHpSERbCDbb87aOUuKAx)。

興味深い内容だったので、同じ先生がちょうど最近出された入門書を読んでみました。

本書では死刑制度や安楽死、喫煙、ベジタリアニズムなどの倫理的問題が取り上げられていますが、それぞれの議論を深めるというよりは、それらの題材を通して倫理的な考え方を身につけることを目標としているようです。ややもするとこうしたテーマに「正解はない」という結論に飛びつきたくなりますが、いろいろな考え方がある中で、そのひとつひとつを一貫性のある基準に基づいて吟味していくのは、確かに一種の訓練が必要なのでしょう。逆にいえば、そうした訓練をしないまま現実の倫理的葛藤に直面してしまうと、極論に流されてしまう危険性があるといえるのかもしれません。その意味では古くて新しいテーマなのでしょうし、個人的にはとてもタイムリーな一冊でした。

自己決定とパターナリズム2

以前から気になっていた映画をアマプラで鑑賞しました。

フェアウェル(字幕版)

フェアウェル(字幕版)

  • オークワフィナ
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NYに暮らすビリーと家族は<嘘>の結婚式を口実に、余命わずかな祖母に会うために中国へ帰郷する。本人への告知を巡り対立するビリーと家族。帰国の朝、彼女たちが選んだ答えとは?

本人よりも家族による意思決定を重視する文化では、不治の病のような悪い情報を本人に知らせるべきではないという信念は根強く、このようなアジアなどにみられる「集団的な価値観(collective cultural values)」が意思決定に与える影響についてはこちらの本の中で解説されています。

こうした伝統が「患者を中心に今後の治療やケアについて話し合いを繰り返すプロセス」であるACPの考え方との間に軋轢を生むこともあります。「患者を尊重する」というコアの部分は同じですが、尊重の仕方が真逆だからです。(p.33)

つまり、本人のためという部分が「自律」を重んじる立場ではパターナリズムと批判されることになるわけですね。この作品ではアメリカで育った主人公が、まさにこの軋轢に悩む過程が描かれます。といってもコメディ寄りのエピソードが多く、気軽に観ることができます。最後の最後で驚きの展開をみせ(正直、反則だと思いますが)、少なくとも後味が悪い作品ではありません。今ならアマプラで無料になっているので、興味のある方はどうでしょうか。