「かかりつけ医」によって満足度は上がるか?


平成19年度版 厚生労働白書 医療構造改革の目指すもの - 厚生労働省


斜め読みなのですが,概ね以前から観測気球的な報道がされていた通りの内容で,こうして予定通り粛々と事は運んでいくのだということでしょう。現場に不足する医師「確保」対策,予防医学による「医療費適正化」,後期高齢者への「終末期医療」の提供など,ツッコミを入れるべきポイントはたくさんあるんでしょうけど,とりあえず気になった点を指摘しておきます。

これまでも患者さんを「かかりつけ医」に誘導することは方針の一つとして挙げられていましたが,そもそも「かかりつけ医」というのはどういう医師なのかといえば,一般の方にとっては,

地域医療の重要な担い手の開業医の事で、普段の健康管理や相談、検診、指導を含め、色々な問題について気軽に相談できる医師の事です。「かかりつけ医」という資格があるわけではなく、その人がかかりつけになれば、その先生はかかりつけ医となります。

介護110番 - 介護ことば辞典


という認識だと思います。当方も漠然と内科系開業医のことだろうと思っていました。白書を読んでみると,「かかりつけ医」の明確な定義はないのですが,

かかりつけの医師を持っている者の方が、そうでない者より、受けた医療への満足度が高いという調査もあることから(図表2-2-15)、地域住民が日頃から相談できる医師を持てるよう にすることが医師と患者との信頼関係の点でも望まれるところである。



第2章 我が国の保健医療の現状と課題 p49


という一文があります。比較する2群の年齢構成や背景因子を無視しているあたりインチキ健康番組と同じ匂いがしますがそれはさておいて,このデータの根拠は日医総研のレポート(PDF)とのことで,こちらで詳細を見ると


となっています。つまり診療所も病院も含めて決まった医師にかかっている方が対象な訳です。しかも高齢者について半数は病院とのことです。この元資料から判断すると「かかりつけ医」に関する満足度と「かかりつけ医」が開業医かどうかの相関はなさそう(すくなくともあると断定は出来ない)と思うのですが,白書の後半では

医療の分野においては、情報の非対称性があるため、患者が自己判断(診断)して数多くの医療機関から受診先を選ぶよりも、専門家である医師が判断して患者に適切な情報を提供する方がより望ましいと考えられる。そこで、患者との間に立って、各医療資源への振り分け機能を発揮できる医師の養成・確保を図る必要がある。こうした振り分け機能を効果的に発揮するためには、患者がかかりつけの医師を持つことが望ましい。かかりつけの医師を持っている者の方が、そうでない者より、受けた医療の満足度が高いという調査結果もある(第2章第2節(49頁)参照)。かかりつけの医師と患者の信頼関係を基礎として、紹介された病院でその後の治療が行われれば、病院の医師と患者の間においても、望ましい意思疎通が図られることもあり、身近な開業医が、かかりつけの医師として、こうした振り分け機能を発揮していくことが期待される。

第4章 これからの健康作りと医療 p119


という形で引用されて,しっかりと「かかりつけ医」には身近な開業医が望ましいとの根拠になっています。こうして見ると,恣意的なデータの引用により結論をミスリーディングしていると言って差し支えないかと思います。これが記者クラブ経由で報道記事になると,

 白書は改革を進めるため、開業医に対し、在宅医療に必要な休日・夜間の診療や、患者、家族の相談に乗れる窓口機能が求められるとした。また認知症の診断など高齢者を総合的に診る必要性を指摘した。

(cache)開業医は在宅医療推進 県には医師不足対策求める 厚生労働白書 - 東京新聞 2007年9月14日


という大変分かりやすい内容になるわけです。おそらく「かかりつけ医」の立場となる当方としては,診療所の機能を理解されている方だけでなく,病院と同等の医療を期待している患者さんにも「満足度」の高い診療を充分提供できるかどうか,正直心許ないものがありますが。