「かかりつけ医」政策への個人的見解


患者さんが専門医を直接受診することで負担がかかっているので「かかりつけ医」「総合医」を育成してそちらを受診するようにすればいいという見識があって,確かにうまくいけばよさそうな話に聞こえるし,だからこそ厚生労働省も学術団体も日本医師会も(それぞれ微妙に立ち位置が違うとはいえ)乗ってきているのでしょう。とはいえ,これがうまくいくためにはどこかで現状のフリーアクセスを制限しないとならないわけで,受け皿となる「かかりつけ医」を育成することは必要なことだとしても,お墨付きを与えれば患者さんがそちらを選択するようになるかどうかは疑問です。そしてフリーアクセス制限に言及すれば患者さんから反発を招くのは必至ですから,そこにはなるべく触れずに議論しているように思えます。

そこにコストの抑制が絡んでくることで話がなおいっそうややこしくなっているように見えます。考えてみれば,専門医とプライマリケアが分業してなおかつ質を保つとすれば,全体で必要とされる人員とコストは増加するはずなのですが,現実には「かかりつけ医」を決めれば複数回受診やハシゴ受診が少なくなって医療費が抑制される,という主張がされています。本当にそうなのであれば,後期高齢者医療制度におけるかかりつけ医診療料は包括払いではなく出来高払いでよかったはずですが,実際には月額6000円固定制だったのは変な話です。あれはアクセス制限に手をつけようとしただけでなく,同時にコスト抑制もやろうとしたのが不人気の一因だったと個人的には思っています。

一般診療に対する一定の診療レベルを提供しながら必要があれば専門医に適宜振り分けするという,という面では多くの内科系開業医が「かかりつけ医」としての機能を果たしている(当方がそこに含まれるかは別ですが)ように思えます。今後とも診断水準の向上をはかる必要はあるにしても,開業医のレベルが低いから「かかりつけ医」のシステムが機能しない,というのもまた極論でしょう。いずれプライマリケアの専門性が認知されて現場に普及する日も来るのでしょうけど,それまでのあいだは現有戦力を生かす方策もあっていいと思うのですが…。現時点で貢献していることが評価されるだけでだいぶ違うのですが,まあ現状の方針は正反対ですね。